芳香環は3つまで! sp3炭素の割合を増やせ!

2009 年、同時期に GlaxoSmithKline と Wyeth から少し似た内容の報告。

GlaxoSmithKline からの報告 [論文1] によると、社内化合物の調査から開発ステージが進むにつれて芳香環の数が減少して行くことがわかったとのこと。前臨床候補化合物では平均 3.3 個の芳香環をもつのに対して、POC (proof-of-concept) にたどり着いた化合物は平均 2.3 個しか芳香環を持たないそうです。芳香環の数と溶解性・脂溶性・CYP阻害・hERG阻害の関係を調べた結果、芳香環の数は 3 つまでが良い、4 つ以上は開発可能性が低くなる、としています。(ピリジンなどのヘテロ芳香環も 1 個と数え、インドールなどの縮環は 2 個と数えます。現在の経口薬の芳香環の平均は 1.6 個だそうです)

一方、Wyeth からの報告 [論文2] では sp3 混成の炭素の割合を F(sp3)=sp3炭素数/全炭素数 と定義し、F(sp3) が開発ステージを進むに従って増加していくことを見出しました (下図)。つまり、sp3炭素が多いほど開発可能性は高く、平面性の高いような分子は臨床試験でドロップしやすいということです。


理由としては、ケミカルスペースの問題と物性の問題が挙げられています。ケミカルスペース的には平面的でない分子はより受容体-リガンドの相補性が高く、標的に対するポテンシーや選択性の向上につながり、off-target への作用が回避できるということです。物性面では F(sp3) が下がるほど融点が上がり、溶解性が悪くなることがデータとしてはっきりと示されています。

もちろん、芳香環が 4 つ以上あるいは平面的な分子の全てが臨床でドロップするわけではありませんが、そうでないものに対してリスクが高いということです。これらの論文は、カップリング反応に頼りすぎている創薬化学者に警鐘を鳴らすものではないでしょうか。合成展開はもちろん、ライブラリーの整備をするときにもこういった視点を頭の片隅に置いておきたいですね。

[関連1] Abbott の HTS hit の優先順位付け (気ままに創薬化学)
[関連2] 芳香環を飽和環にして溶解性を上げる (気ままに創薬化学)
[論文1] "The impact of aromatic ring count on compound developability – are too many aromatic rings a liability in drug design?" Drug Disc. Today 2009, 14, 1011.
[論文2] "Escape from Flatland: Increasing Saturation as an Approach to Improving Clinical Success" J. Med. Chem. 2009, 52, 6752.

気ままに創薬化学 2010年01月30日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許

創薬化学におけるアトロプ異性体

2009 年、Angewandte より [論文]

創薬化学におけるアトロプ異性体の考え方と実例・対処例などをまとめたミニレビュー。気ままに有機化学の NMR クイズ で意外と気づきにくい軸不斉を取り上げましたが、医薬候補分子にもそういったのがたくさんあるので気をつけないといけません。下図は論文で挙げられているアトロプ異性体の例の一部です (赤色太線が不斉軸)。ご興味もたれた方は是非論文に目を通してみてください。


[論文] "The Challenge of Atropisomerism in Drug Discovery" Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6398.

気ままに創薬化学 2010年01月18日 | Comment(0) | 相互作用・配座・等価体

最高にカッコいい薬の構造式 [動画]

ニコニコ動画より、最高にカッコいい薬の構造式という動画。


創薬化学者にはたまりませんね。笑

気ままに創薬化学 2010年01月14日 | Comment(0) | コーヒーブレイク

結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上1

2001 年、Pfizer 社からの報告 [論文]

下記左の化合物の溶解性の低さはその高い融点 (>320℃) から結晶格子が強すぎるためだと考えられました。分子の平面性を崩すことで結晶パッキングを弱めることを考え、分子モデリングからヘテロ環の横にエチル基を導入することを試みたところ、水溶性が大幅に向上したとのこと。(厳密には塩や水和物の状態、溶媒の状態も全く同じではありませんが、溶解性が大幅に向上したのは間違いなさそうです。)

100108.bmp

私の知る限り、溶解性を上げるには 3 つの方法があります。1 つは極性基を導入することによって、化合物-溶媒間の相互作用を強めて熱力学的な溶解性を高める方法。もう 1 つは分子の結晶パッキングを落とすことによって、化合物-化合物間の相互作用を弱めて速度論的な溶解性を高める方法。最後の 1 つは化合物は変えずに、塩形・結晶形・粒子状態などを変えることで溶解性を高める方法。

今回は 2 つ目の 「分子の結晶パッキングを落とすことによって、化合物-化合物間の相互作用を弱めて速度論的な溶解性を高める方法」 が劇的な効果を上げた例の紹介でした。

[関連] 結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上2 (気ままに創薬化学)
[関連] 結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上3 (気ままに創薬化学)
[論文] "Structure−Activity Relationships of 1,4-Dihydro-(1H,4H)-quinoxaline-2,3-diones as N-Methyl-d-aspartate (Glycine Site) Receptor Antagonists. 1. Heterocyclic Substituted 5-Alkyl Derivatives" J. Med. Chem., 2001, 44, 1951.

気ままに創薬化学 2010年01月09日 | Comment(8) | ADMET・物性・特許