オキセタンの創薬化学 [追記]

先日紹介した オキセタンの創薬化学 という記事のコメント欄で momonga さんから素敵な情報をいただきました。それは、オキセタンの論文の First Author の博士論文が ETH から無料で入手可能だというのです。

早速内容を見てみたところ、論文に書いていないような内容も含めてとても綺麗にまとまっています。オキセタンの創薬化学に興味がある方は是非一度ご覧ください。情報提供くださった momonga さん、ありがとうございました!

気ままに創薬化学 2010年04月15日 | Comment(2) | 相互作用・配座・等価体

既存薬の骨格は多様か?

1996 年、Vertex Pharmaceuticals 社の報告 [論文]

薬の構造式から元素の種類と結合の種類を無視したものを 「グラフ」 と定義し、「グラフ」 から側鎖を除いたもの、すなわち環構造とそれをつなぐリンカーを抽出したものを 「フレームワーク」 と定義します。


そして既存薬の構造を 「フレームワーク」 で表すと、CMC データベースの 5120 化合物のうち、約半数が下図のたった 32 フレームワークに納まるそうです。(ちなみにフレームワークの総数は 1179 個、その内 783 個は単一化合物にのみ存在)


さて、この結果を見てあなたはどう思いますか?
(1) ドラッグライクな構造は上の 32 個ということだ。合成展開やライブラリーも上のような化合物にしよう。
(2) 上の 32 個以外が特許性・新規性の高い化合物だ。合成展開やライブラリーも上のような化合物以外にしよう。

私にはどちらがより効率的な創薬につながるのかわかりません (もっと違う観点からケミカルスペースを考えるべきなのかもしれません)。ただ、個人的な考えでは、この偏りは 「売っているものや合成例があるものを優先しやすい」 という合成展開やライブラリーの労力を小さくするための意識・無意識的な作用の影響を多分に受けていそうな気がします。なので、個人的には (2) で行きたいと思っています。

この論文は 1996 年の発表ですが、ここ 10〜20 年で合成化学の方法論も大きく進展しましたし、新しいフレームワークの化合物も増えてきているかもしれません。実際、近年の特許はスピロ構造、多縮環構造、≧七員環、≦四員環、四級炭素など、上のフレームワークを外れるものが多くなってきているように思います。ちなみに、先日紹介した オキセタンの創薬化学 は四員環・四級炭素・スピロ構造ですので、フレームワークという観点からも面白い構造ですね。・・・さて、更に 10〜20 年後はどんな骨格を作るようになっているのでしょうか?

[論文] "The Properties of Known Drugs. 1. Molecular Frameworks" J. Med. Chem. 1996, 39, 2887.

気ままに創薬化学 2010年04月07日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許

オキセタンの創薬化学

Roche 社と Erick M. Carreira 先生、Klaus Müller 先生の共同研究でオキセタン (oxetane) の創薬化学についての論文が出ていました [論文1] [論文2] [論文3]。とても興味深い内容ですので是非目を通してみてください。私はまだ流し読みしかしていませんが、パッと目に付いたのは以下の 5 点。


・ オキセタンは gem-ジメチル基と同程度のファンデルワールス体積を占める。gem-ジメチル基をオキセタンに変えると脂溶性↓溶解性↑多くの場合で代謝抵抗性↑。
・ オキセタンは脂肪族ケトン基と同程度の水素結合受容性あり。一般に、カルボニル基をオキセタンに変えると脂溶性↑溶解性↓。アミドのカルボニル基をオキセタンにすると代謝抵抗性↓だが、ケトンのカルボニル基をオキセタンにすると代謝抵抗性↑の傾向。
・ アミン近傍にオキセタンを導入するとアミンの塩基性は低下 (α位で ΔpKa = -2.5〜-3.5、β位で ΔpKa = -1.5〜-2.0 程度)。
・ gem-ジメチル、オキセタン、カルボニルで近傍のコンホメーションが変化 (詳しくは論文参照)。
・ 上記のオキセタン化合物はオキセタン-3-オンから数ステップで合成可能。

私はオキセタンを試したことがなかったのですが、面白そうですね。できれば社内に中間体を幾つかストックしておくといいかなと思うのですが・・・。なお、オキセタンの他の合成法については論文のリファレンスあるいは Denmark グループのセミナー資料 (2009年) にまとまっています。

ちなみに、Roche 社はスピロオキセタンの次はスピロアゼチジンに力を入れているようで、ごく最近いくつか論文発表しています [論文4] [論文5]。スピロオキセタンやスピロアゼチジン類は特許性やケミカルスペースの観点からも合成展開やライブラリーに取り入れてみてもいいかもしれませんね。

[2010.12.04 追記]
先日、オキセタンの創薬化学と合成法に関するミニレビューが Angewandte に出ていました [論文6]。ご興味ある方はこちらも併せてどうぞ。

[論文1] "Oxetanes in Drug Discovery: Structural and Synthetic Insights" J. Med. Chem. Article ASAP.
[論文2] "Oxetanes as Promising Modules in Drug Discovery" Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7736.
[論文3] "Spirocyclic Oxetanes: Synthesis and Properties" Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 4512.
[論文4] "Synthesis of Azaspirocycles and their Evaluation in Drug Discovery" Angew. Chem. Int. Ed. Early View.
[論文5] "Synthesis and Structural Analysis of a New Class of Azaspiro[3.3]heptanes as Building Blocks for Medicinal Chemistry" Org. Lett. Article ASAP.
[論文6] "Oxetanes as Versatile Elements in Drug Discovery and Synthesis" Angew. Chem. Int. Ed. Early View.

気ままに創薬化学 2010年04月05日 | Comment(5) | 相互作用・配座・等価体