ピリジン窒素でアミドの向きを制御する

立体配座の固定には多くの場合、共有結合や分子内水素結合あるいは立体障害が用いられることが多いかと思います。今回紹介するのは 2003 年の Eli Lilly 社からの報告で、ピリジンの窒素原子を使ってアミドの向きを制御した例です。

Eli Lilly 社では片頭痛治療薬として 5-HT1F 選択的アゴニスト LY-334370 を見出していました。この化合物は PhaseU で有効性を示したものの動物において毒性が見られ開発が中止されているそうです。


この LY-334370 は 5-HT1B や 5-HT1D に対する選択性は良いのですが、5-HT1A 受容体に対する選択性が甘く、そこの改善を目指した合成展開で見つかった知見 [論文]。LY-334370 のインドール骨格に窒素原子を導入してピロロピリジン骨格に変えるとアミドの立体に顕著な変化が見られるとのことです (下図)。

インドール 6 位に窒素原子を導入した 2a ではコンホメーション A が優先し、インドール 4 位に窒素原子を導入した 3a ではコンホメーション B が優先するそうです。Macromodel を用いた計算ではそれぞれの配座のエネルギー差は約 3.5 kcal/mol にも上ると見積もられています。さらに、Cambridge Structural Database の結晶構造から 2-aminoacylpyridine 構造を持つものを抽出すると、 270 化合物中約 90 %が 2a-A3a-B と同じ向きだったそうです。


この配座の優先性の由来は、双極子モーメントの最小化あるいはアミドカルボニルとピリジン窒素のローンペア同士の反発のためと推測とされています。

立体配座の固定化というと共有結合や分子内水素結合あるいは立体障害ばかりに目が行きがちですが、こうした非結合性の相互作用も上手く分子デザインに考慮できるようになりたいものです。

[補足] もちろんインドールをピロロピリジンに変換することで、ピリジン窒素自体が水素結合受容体として働く可能性やアミドの酸性度が変化する可能性もあります (論文にも書いてあります)。個人的には、ピリジンがプロトン化を受けた場合に逆の配座になるのではないか、というのが気になるのですがどうなのでしょうか?
[論文] "Novel Potent 5-HT1F Receptor Agonists: Structure−Activity Studies of a Series of Substituted N-[3-(1-Methyl-4-piperidinyl)-1H-pyrrolo[3,2-b]pyridin-5-yl]amides" J. Med. Chem. 2003, 46, 3060.
[関連] ピリジン窒素でアミドの向きを制御する (2) (気ままに創薬化学)
[関連] 結晶構造に見られるピリジン環 2 位置換基の配座 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2010年05月24日 | Comment(4) | 相互作用・配座・等価体

予想以上に低脂溶性 2H-quinolizin-2-one

化合物の脂溶性が高すぎる。これは近年の創薬化学ではよく見られる光景かと思います。脂溶性が高すぎると溶解性が悪くなったり代謝が早くなったり hERG が出やすくなったり・・・やはり LogP は適切に保つ必要があります。

ところで 2010 年 Merck からの報告で興味深いものがありました [論文1]。p38α MAP キナーゼ阻害剤の研究で、下図右の 2H-quinolizin-2-one 骨格の化合物は下図中央の化合物よりも LogD が低いというのです。ちょっと驚きではないですか?


Merck は 2006 年に 2H-quinolizin-2-one 骨格の合成法を確立していて [論文2]、その論文によると下図のような近隣化合物よりも実際に TLC や HPLC で高極性、そして高溶解性とのことです。構造式の下の cLogP 値は私が ChemDraw (ver8.0) で出した参考値です。


この驚くべき低脂溶性の由来ですが、下図左のような芳香族性に伴う内部電荷分離による大きい双極子モーメントのためだそうです。下図右は私が勝手に書いたものですが、pyridin-4-one と pyridin-2-one を比較すると 4-one の方が明らかに低脂溶性です。なので、2H-quinolizin-2-one 骨格は 4-one 効果と内部電荷分離効果の両方から大きな双極子モーメントをもち、その結果見た目以上の脂溶性の低さと溶解性の良さに繋がっていると思われます。


予想以上に低脂溶性の 2H-quinolizin-2-one 骨格、物性だけではなく構造自体の新規性も比較的高いですし合成展開やライブラリーに取り入れてみても面白いかもしれませんね。

[論文1] "Synthesis and biological activity of 2H-quinolizin-2-one based p38α MAP kinase inhibitors" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2010, 20, 2765.
[論文2] "Synthesis of the 2H-quinolizin-2-one scaffold via a stepwise acylation—intramolecular annulation strategy" Tetrahedron Lett. 2006, 47, 5063.

気ままに創薬化学 2010年05月08日 | Comment(2) | ADMET・物性・特許