フッ素を入れて脂溶性を下げる

タイトルを呼んで 「いや、フッ素を入れたらむしろ脂溶性は少し上がるだろ」 と思われた方もいるかもしれませんが、そうでない場合もあるのです。2004 年、Roche 社の報告 [論文]

Roche 社内化合物のうち、水素原子をフッ素原子に置き換えた分子のペア 293 組の log D の変化を調べたところ、平均するとおよそ 0.25 程度 log D が上昇するという結果が得られました。しかしながら個別に見ると log D が低下しているペアも結構な数が存在していることがわかったのです。そして log D が低下した化合物には共通した部分構造があり、それが下図の 6 つの構造だそうです。どれもフッ素原子が酸素原子から 2〜3 炭素離れた位置にあるような構造ですね。


私の経験上もこの部分構造をもつフッ素置換で log P が 0.7 も低下してびっくりしたことがあります。そうした場合には代謝抵抗性を上げながら脂溶性を下げるという一挙両得な構造変換になりえます。上図の構造からフッ素を除いた部分構造で合成展開している場合には、上図の位置にフッ素を入れてみるのもいいかもしれません。

最後に 「なぜ上図の構造だと脂溶性が下がるのか」 についてですが、残念ながら完全にはわかっていないそうです。ただ、コンフォメーション解析の結果、酸素とフッ素の距離が 3.1 Å 以下の安定コンフォメーションを 1 つ以上もつこと、また量子化学計算の結果、フッ素を入れることでクロロホルム中よりも水中での溶媒和が促進されるということから、分子全体あるいは酸素原子の極性が上がって脂溶性が低下しているのではないか、という一応の説明がなされています。上図以外の構造やフッ素以外で同じ効果が期待できるものはないのでしょうか、ちょっと気になるところです。

[論文] "Fluorine in Medicinal Chemistry" ChemBioChem, 2004, 5, 637.

気ままに創薬化学 2010年09月19日 | Comment(5) | ADMET・物性・特許

オキセタン、売ってます。

以前 オキセタンの創薬化学 (+追記合成法) を紹介しましたが、実際に試すには少々骨が折れるかと思います。というのは論文などではオキセタン-3-オンから数ステップかけて種々の誘導体を合成してますが、オキセタン-3-オンが高価なうえ合成工数もかかるのでなかなかとっつきづらいのです。しかも主要メーカーでは他のオキセタン誘導体はほとんど売ってない様子。

先月末に行ってきた ACS National Meeting でオキセタンのビルディングブロックを 10 種類以上扱っている Synthonix 社を知りました。下記のパンフレット 2 枚をもらってきましたので構造式はそちらをご覧ください (図はクリックで拡大します)。250mg〜25g スケールで販売していて、1g で買うと 140〜1220US$。安くはないですが、合成展開に使える範囲ではないでしょうか。

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Synthonix 社の新製品パンフレット (図はクリックで拡大します)

もし興味はあるけど合成が面倒・・・と諦めていた方は一度試してみてはいかがでしょうか。あともし他に興味深いビルディングブロックを販売している会社などご存知の方はお知らせいただけると幸いです。

[関連] オキセタン、売ってます。2 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2010年09月07日 | Comment(3) | 合成化学