オキセタン、売ってます。 という記事で Synthonix 社を紹介しましたが、最近 Activate-Scientific 社を知りました。こちらでも下図に含まれるものをはじめ、オキセタンを部分構造に含むものをこんなに 取り扱っています。これらの中には Synthonix 社にないものもありますし、逆に Synthonix 社であったものがないものもありますので、両方見ることで望みのオキセタンが見つかるかもしれません。
ちなみに、オキセタン以外でもなかなかユニークビルディングブロックを取り扱っているみたいなので、合成展開の詰めのあたりで利用価値のある試薬があるかもしれませんね。(もし他にオススメの試薬メーカーなどご存知でしたらコメント欄でお知らせいただけると幸いです)
[情報] 気ままに有機化学に 今春の ACS の講演もオンラインで見よう! を執筆しました。創薬化学系の講演は少なかったので気ままに創薬化学には投稿していませんが、興味ある方はご覧ください。
オキセタン、売ってます。2
気ままに創薬化学 2010年12月23日
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| 合成化学
今秋の ACS の講演をオンラインで見よう!
アメリカ化学会 (ACS) の 特設サイト で今年の 8 月に行われた ACS National Meeting & Exposition の講演の一部を見ることができます。しかもパワーポイントのスライドだけでなく演者の発表音声も公開されています (ただし、すべての講演ではなく一部のみ)。この年末年始の休みや暇な時間に覗いてみてはいかがでしょうか?
例えば、有機化学関連では以下のような演題が聴講できます。
・ M. Christina White: C-H Oxidation in organic synthesis
・ Yoshito Kishi: Natural product synthesis
・ Steven Ley: Changing Face of Organic Synthesis
・ Robert Williams: Quinine! A Story of Chemistry, History, Personalities and Ethics
例えば、創薬化学関連では以下のような演題が聴講できます。
・ James Empfield: Physicochemical and pharmacological properties as predictors of drug safety and success
・ Simon Macdonald: Aromatic ring count and compound developability
・ Stephen Johnson: Molecular matched pairs derived QSAR for the optimization of ADMET properties
・ Stuart Schreiber: Towards linking tumor genomic signatures to cancer therapeutics
上で紹介した以外の演題もいくつも公開されていますので、是非一度 ACS のホームページ で自分の興味にあった講演がないか探してみてください。いや、それにしても一部の演題をオンラインで一般公開するなんて、アメリカ化学会は
[関連] 英語圏の有名化学ブログ (気ままに創薬化学)
[関連] オキセタン、売ってます。 (気ままに創薬化学)
気ままに創薬化学 2010年12月20日
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| サイト・ツール・本
結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上2
結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上1 では Pfizer 社によるベンジル位にエチル基を導入することで劇的な溶解性向上を達成した例を紹介しました。今回は 2010 年、東京大学の橋本祐一研究室からの報告 [論文] を紹介したいと思います。
下図のように、リード化合物 1 に比べて平面性を崩した化合物 2 や対称性を崩した化合物 3 は溶解度が向上しています (X 線結晶解析から、化合物 2 ではピペリジン環とベンゾイル基の二面角が大きくなっていることがわかっています)。CLogP や HPLC 保持時間は大きくなっていること、また融点が下がっていることから、これは結晶パッキングを崩すことの効果と推定されています。
さらに、平面性を崩すアプローチについて、下図の骨格の化合物シリーズが分析されています。すなわち、オルト位への置換基導入で平面性を崩す (二面角↑) と、結晶パッキングが崩れ (融点↓)、溶解性が向上するということが示されています。例えば、R1=H、R2=H、X=C の化合物では溶解度が 85μg/mL (融点 166℃、二面角 18℃) なのに対し、R1=Me、R2=Me、X=C の化合物では溶解度が 1270μg/mL まで向上しています (融点 92℃、二面角 70℃)。より詳細な解析については論文をご参照ください。
以上、オルト位への置換基導入によって平面性を崩す、あるいは分子全体の対称性を崩すことで溶解度を向上させる構造変換のご紹介でした。こうしたアプローチも巧く使いこなして、活性のみならず物性も良好な化合物の取得に役立てたいですね。
[謝辞] 今回紹介した論文は、ぱたーるさんに情報提供いただいたものです。ありがとうございます。
[関連] 結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上3 (気ままに創薬化学)
[論文] "β-Naphthoflavone analogs as potent and soluble aryl hydrocarbon receptor agonists: Improvement of solubility by disruption of molecular planarity" Bioorg. Med. Chem., 2010, 18, 1194.
下図のように、リード化合物 1 に比べて平面性を崩した化合物 2 や対称性を崩した化合物 3 は溶解度が向上しています (X 線結晶解析から、化合物 2 ではピペリジン環とベンゾイル基の二面角が大きくなっていることがわかっています)。CLogP や HPLC 保持時間は大きくなっていること、また融点が下がっていることから、これは結晶パッキングを崩すことの効果と推定されています。
さらに、平面性を崩すアプローチについて、下図の骨格の化合物シリーズが分析されています。すなわち、オルト位への置換基導入で平面性を崩す (二面角↑) と、結晶パッキングが崩れ (融点↓)、溶解性が向上するということが示されています。例えば、R1=H、R2=H、X=C の化合物では溶解度が 85μg/mL (融点 166℃、二面角 18℃) なのに対し、R1=Me、R2=Me、X=C の化合物では溶解度が 1270μg/mL まで向上しています (融点 92℃、二面角 70℃)。より詳細な解析については論文をご参照ください。
以上、オルト位への置換基導入によって平面性を崩す、あるいは分子全体の対称性を崩すことで溶解度を向上させる構造変換のご紹介でした。こうしたアプローチも巧く使いこなして、活性のみならず物性も良好な化合物の取得に役立てたいですね。
[謝辞] 今回紹介した論文は、ぱたーるさんに情報提供いただいたものです。ありがとうございます。
[関連] 結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上3 (気ままに創薬化学)
[論文] "β-Naphthoflavone analogs as potent and soluble aryl hydrocarbon receptor agonists: Improvement of solubility by disruption of molecular planarity" Bioorg. Med. Chem., 2010, 18, 1194.
気ままに創薬化学 2010年12月14日
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| ADMET・物性・特許
2010年11月発刊の創薬関連書籍
今月の新刊で最も関心が高いのはおそらく 新編ヘテロ環化合物 展開編 ではないかと思います。この本は上図 新編ヘテロ環化合物 基礎編 と 応用編 の続編で、新刊は小員環・中員環・遷移金属触媒を用いる反応についても解説したものです。また、ヘテロ環については先月、 Katritzky の Handbook of Heterocyclic Chemistry の第 3 版が出ました。第 2 版に比べてページ数も 1.5 倍になった力作で、私も個人的に第 2 版が役立ったことがあるので早速新版を注文しています。ヘテロ環つながりでついでに紹介しておくと、Baran の講義資料 Essentials of Heterocyclic Chemistry 1, 2, 3, 4 は web で無料で手に入る pdf なのにクオリティが高いものだと思います。印刷して手元に置いておくと便利かも。
さて、今月発売の創薬関連書籍は数が多いので、和書 (全般)、洋書 (全般)、洋書 (SBDD・ケモインフォ・バイオインフォ)、洋書 (癌関連) の 4 つに分けて並べてみました。
◆ 和書 (全般)
・ 新編ヘテロ環化合物 展開編
・ 杉本八郎創薬への途
・ クロスカップリング反応―基礎と産業応用
・ 新遺伝子工学ハンドブック (実験医学別冊)
・ マンガでわかるはじめての統合失調症
・ タンパク質の立体構造入門――基礎から構造バイオインフォマティクスへ
◆ 洋書 (全般)
・ Annual Reports in Medicinal Chemistry, Volume 45
・ Drug Metabolism: Current Concepts
・ Optimization in Drug Discovery
・ Medicinal Chemistry and Pharmacological Potential of Fullerenes and Carbon Nanotubes
・ Natural Products: Drug Discovery and Therapeutic Medicine
・ Peptide-Based Drug Design
・ Chiral Separation Methods for Pharmaceutical and Biotechnological Products
・ Protein Misfolding and Disease
・ Protein Tyrosine Kinases: From Inhibitors to Useful Drugs
・ Orphan G Protein-Coupled Receptors and Novel Neuropeptides
・ Antimalarial Chemotherapy: Mechanisms of Action, Resistance, and New Directions in Drug Discovery
・ High Content Screening
・ Biomarker Methods in Drug Discovery and Development
・ Rnai in Drug Discovery And Development
・ Stem Cells & Regenerative Medicine: From Molecular Embryology to Tissue Engineering
・ Leading Pharmaceutical Innovation: Trends and Drivers for Growth in the Pharmaceutical Industry
◆ 洋書 (SBDD・ケモインフォ・バイオインフォ)
・ Structure-Based Drug Design Experimental and Computational Approaches
・ Structure-based Drug Discovery
・ Free Energy Calculations in Rational Drug Design
・ Clustering in Bioinformatics and Drug Discovery
・ Chemoinformatics: Concepts, Methods, and Tools for Drug Discovery
・ Bioinformatics and Drug Discovery
・ Pharmacogenomics in Drug Discovery and Development
◆ 洋書 (癌関連)
・ Proteasome Inhibitors in Cancer Therapy
・ Deoxynucleoside Analogs in Cancer Therapy
・ Fluoropyrimidines in Cancer Therapy
・ Platinum-Based Drugs in Cancer Therapy
・ COX-2 Blockade in Cancer Prevention and Therapy
・ Targets for Cancer Chemotherapy
・ Molecular Targeting in Oncology
・ Cell Cycle Inhibitors in Cancer Therapy
・ Tumor Targeting in Cancer Therapy
・ Drug Delivery Systems in Cancer Therapy
・ Genomics and Pharmacogenomics in Anticancer Drug Development and Clinical Response
・ Apoptosis, Senescence and Cancer
・ EGFR Signaling Networks in Cancer Therapy
・ Cancer Drug Resistance
・ Cancer Proteomics: From Bench to Bedside
・ In Vivo Imaging of Cancer Therapy
気ままに創薬化学 2010年12月09日
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| 月別創薬関連書籍
製薬企業が見つけたホスホニウム系縮合剤の新反応
ホスホニウム系縮合剤は下記のような構造をもつ試薬の総称で、主にカルボン酸とアミンからのアミド合成やペプチド合成に使われる脱水縮合剤です。BOP の B はベンゾトリアゾール、O は酸素、P はリンを表し [(Benzotriazol-1-yloxy)-tris(dimetylamino)phosphonium hexafluorophosphate]、PyBOP の Py はピロリジンを意味しています。BroP の Bro は臭素を表しています (Brop あるいは BrOP の両方の表記が使われる)。
例えば、PyBOP は下図のようにカルボン酸を活性化することでアミド形成を促進すると考えられています。すなわち、DIPEA (ジイソプロピルエチルアミン) で脱プロトン化されたカルボン酸が PyBOP に求核攻撃することで HOBt (ヒドロキシベンゾトリアゾール) が脱離、さらに脱離した HOBt がカルボニルに対して付加脱離を起こすことで HOBt エステルを形成、そこにアミンが求核攻撃して HOBt が脱離することでアミドが形成する、という機構です。
実は PyBOP 自体も製薬企業の Merck によって開発されたもので、PyBOP という名前は Merck の登録商標です。そして近年、製薬各社がホスホニウム系縮合剤を使った新反応を報告していますので、3 つ紹介したいと思います。
まずは、2005 年の同時期に Wyeth [論文1][論文2] と Johnson&Johnson [論文3] から報告された、ヘテロ環状アミド・ウレアの芳香族求核置換反応 (Article は 2007 年の Wyeth [論文4])。例えば下図のような環状アミドに BOP、DBU、求核剤を加えるとアミドの酸素原子が求核剤で置換された生成物を与えます。反応機構も下図のとおりですが、上で紹介した PyBOP のアミド化とよく似ていることがわかるかと思います。この反応は (電子豊富でない) 種々のヘテロ環状アミド・ウレアで進行し、求核剤も様々なものが使えるようです。
2 つ目の反応は 2008 年 JACS に Johnson&Johnson から報告された [論文5]、ヘテロ環状アミドやウレアのカップリング反応。1 つ上の反応機構の途中に書いたヘテロ環のホスホニウム塩がカップリング反応に使えるのではないかと考えて反応を最適化。PyBroP、Et3N でヘテロ環をホスホニウム塩にした後に、Pd 触媒とボロン酸、塩基を加えるという手法で鈴木-宮浦カップリング型の反応が進行することを発見しました。「リン酸エステルを基質にしたカップリングと同じ」 と思った方もいるかもしれませんが、リン酸エステルがボロン酸の立体的・電子的効果を大きく受けるのに対して今回のホスホニウム塩のカップリングは幅広いボロン酸に対して高収率でビアリール体を与えています。基質も (電子豊富でない) 種々のヘテロ環状アミド・ウレアで進行するようです。
これらの反応は反応形式が面白いだけでなく、条件が温和でとても便利な反応でもあります。例えば下のヌクレオシドのプリン環 6 位に求核剤や芳香環を入れることを考えましょう。これまでの従来の方法では、まず糖の水酸基を保護し、オキシ塩化リン (毒物、さらに後処理で強く発熱するので注意が必要) などを使って塩素化し、そこに求核剤や芳香環を導入して、水酸基を脱保護する、という 4 ステップが必要になってきます。一方、今回紹介した方法は 1 ステップでしかも高収率で目的物が得られるという素晴らしい反応です。特に、これらの骨格の誘導体を多数合成したいときには、時間も手間も大幅に省いてくれるでしょう。そう考えると、こうした反応が製薬企業から報告されてきているのがリーズナブルに思えます。まさに 「必要は発明の母 “Necessity is the mother of invention.”」 ですね。
最後におまけ的に 3 つ目ですが、今年 2010 年には Pfizer からピリジン-N-オキシドに PyBroP とアミンを反応させることで 2-アミノピリジンが合成できるという報告もあります [論文6]。ピリジン 2 位選択性が高く、4 位には全く入らないとのこと。基質はピリジンだけでなくキノリンやイソキノリンでも進行、アミンの代わりにアンモニアやアニリン、イミダゾールなども入れることができるようです。この反応も薬の候補分子によく見られる構造を作る上で有用な反応ですね。
以上、カルボン酸の活性化に用いられてきたホスホニウム系縮合剤が、ヘテロ環状アミド・ウレア、さらにピリジン-N-オキシドの活性化にも使えることがわかり、有用な新規反応が見出されてきているという話でした。今日あなたが何気なく使っている試薬も、こうした新しい可能性を秘めているかもしれませんよ?
[論文1] "A Highly Facile and Efficient One-Step Synthesis of N6-Adenosine and N6-2'-Deoxyadenosine Derivatives" Org. Lett., 2005, 7, 5877.
[論文2] "An Efficient Direct Amination of Cyclic Amides and Cyclic Ureas" Org. Lett., 2006, 8, 2425.
[論文3] "Efficient Conversion of Biginelli 3,4-Dihydropyrimidin-2(1H)-one to Pyrimidines via PyBroP-Mediated Coupling" J. Org. Chem., 2005, 70, 1957.
[論文4] "The Scope and Mechanism of Phosphonium-Mediated SNAr Reactions in Heterocyclic Amides and Ureas" J. Org. Chem., 2007, 72, 10194.
[論文5] "Pd-Catalyzed Direct Arylation of Tautomerizable Heterocycles with Aryl Boronic Acids via C−OH Bond Activation Using Phosphonium Salts" J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 11300.
[論文6] "General and Mild Preparation of 2-Aminopyridines" Org. Lett., 2010, 12, 5254.
例えば、PyBOP は下図のようにカルボン酸を活性化することでアミド形成を促進すると考えられています。すなわち、DIPEA (ジイソプロピルエチルアミン) で脱プロトン化されたカルボン酸が PyBOP に求核攻撃することで HOBt (ヒドロキシベンゾトリアゾール) が脱離、さらに脱離した HOBt がカルボニルに対して付加脱離を起こすことで HOBt エステルを形成、そこにアミンが求核攻撃して HOBt が脱離することでアミドが形成する、という機構です。
実は PyBOP 自体も製薬企業の Merck によって開発されたもので、PyBOP という名前は Merck の登録商標です。そして近年、製薬各社がホスホニウム系縮合剤を使った新反応を報告していますので、3 つ紹介したいと思います。
まずは、2005 年の同時期に Wyeth [論文1][論文2] と Johnson&Johnson [論文3] から報告された、ヘテロ環状アミド・ウレアの芳香族求核置換反応 (Article は 2007 年の Wyeth [論文4])。例えば下図のような環状アミドに BOP、DBU、求核剤を加えるとアミドの酸素原子が求核剤で置換された生成物を与えます。反応機構も下図のとおりですが、上で紹介した PyBOP のアミド化とよく似ていることがわかるかと思います。この反応は (電子豊富でない) 種々のヘテロ環状アミド・ウレアで進行し、求核剤も様々なものが使えるようです。
2 つ目の反応は 2008 年 JACS に Johnson&Johnson から報告された [論文5]、ヘテロ環状アミドやウレアのカップリング反応。1 つ上の反応機構の途中に書いたヘテロ環のホスホニウム塩がカップリング反応に使えるのではないかと考えて反応を最適化。PyBroP、Et3N でヘテロ環をホスホニウム塩にした後に、Pd 触媒とボロン酸、塩基を加えるという手法で鈴木-宮浦カップリング型の反応が進行することを発見しました。「リン酸エステルを基質にしたカップリングと同じ」 と思った方もいるかもしれませんが、リン酸エステルがボロン酸の立体的・電子的効果を大きく受けるのに対して今回のホスホニウム塩のカップリングは幅広いボロン酸に対して高収率でビアリール体を与えています。基質も (電子豊富でない) 種々のヘテロ環状アミド・ウレアで進行するようです。
これらの反応は反応形式が面白いだけでなく、条件が温和でとても便利な反応でもあります。例えば下のヌクレオシドのプリン環 6 位に求核剤や芳香環を入れることを考えましょう。これまでの従来の方法では、まず糖の水酸基を保護し、オキシ塩化リン (毒物、さらに後処理で強く発熱するので注意が必要) などを使って塩素化し、そこに求核剤や芳香環を導入して、水酸基を脱保護する、という 4 ステップが必要になってきます。一方、今回紹介した方法は 1 ステップでしかも高収率で目的物が得られるという素晴らしい反応です。特に、これらの骨格の誘導体を多数合成したいときには、時間も手間も大幅に省いてくれるでしょう。そう考えると、こうした反応が製薬企業から報告されてきているのがリーズナブルに思えます。まさに 「必要は発明の母 “Necessity is the mother of invention.”」 ですね。
最後におまけ的に 3 つ目ですが、今年 2010 年には Pfizer からピリジン-N-オキシドに PyBroP とアミンを反応させることで 2-アミノピリジンが合成できるという報告もあります [論文6]。ピリジン 2 位選択性が高く、4 位には全く入らないとのこと。基質はピリジンだけでなくキノリンやイソキノリンでも進行、アミンの代わりにアンモニアやアニリン、イミダゾールなども入れることができるようです。この反応も薬の候補分子によく見られる構造を作る上で有用な反応ですね。
以上、カルボン酸の活性化に用いられてきたホスホニウム系縮合剤が、ヘテロ環状アミド・ウレア、さらにピリジン-N-オキシドの活性化にも使えることがわかり、有用な新規反応が見出されてきているという話でした。今日あなたが何気なく使っている試薬も、こうした新しい可能性を秘めているかもしれませんよ?
[論文1] "A Highly Facile and Efficient One-Step Synthesis of N6-Adenosine and N6-2'-Deoxyadenosine Derivatives" Org. Lett., 2005, 7, 5877.
[論文2] "An Efficient Direct Amination of Cyclic Amides and Cyclic Ureas" Org. Lett., 2006, 8, 2425.
[論文3] "Efficient Conversion of Biginelli 3,4-Dihydropyrimidin-2(1H)-one to Pyrimidines via PyBroP-Mediated Coupling" J. Org. Chem., 2005, 70, 1957.
[論文4] "The Scope and Mechanism of Phosphonium-Mediated SNAr Reactions in Heterocyclic Amides and Ureas" J. Org. Chem., 2007, 72, 10194.
[論文5] "Pd-Catalyzed Direct Arylation of Tautomerizable Heterocycles with Aryl Boronic Acids via C−OH Bond Activation Using Phosphonium Salts" J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 11300.
[論文6] "General and Mild Preparation of 2-Aminopyridines" Org. Lett., 2010, 12, 5254.
気ままに創薬化学 2010年12月04日
| Comment(3)
| 合成化学