2011 年 BMCL より、予想以上に低脂溶性 2H-quinolizin-2-one で紹介した Merck の p38α MAP キナーゼ阻害剤の続報です [論文]。本報告では quinolizin-2-one 骨格の化合物 5 から、窒素を導入した pyridopyridazin-6-one 骨格の化合物 19 へと展開することで活性および選択性の向上に成功しています。その要因として挙げられているのが下図右の再安定コンホメーションの変化で、化合物 19 はちょうど疎水性ポケットがある方向にジフルオロフェニル基が配置されるとのことです。
このコンホメーション変化、どこかで見たことありませんか?私はこれを見て以前紹介した ヘテロ芳香族エーテルのコンホメーション を思い出しました。すなわち、下図のようにヘテロ芳香族エーテルではピリジンなど窒素芳香環とのローンペア反発が効いたコンホメーションが安定 (フランなど酸素やチオフェンなど硫黄には効いてこない) という内容です。
前者の論文では後者の文献は引用されていませんので、筆者らはこれを知らずに展開していたものと思われますが、このコンホメーション変化は意識的に使えるかもしれません。つまり、ヘテロ芳香族エーテルがあれば、酸素置換基の隣に窒素を導入してコンホメーション変化させて活性がどうなるか見る、こういう展開も面白いかもしれませんね。
(なお、当然のことですが、窒素を導入することでコンホメーション以外のプロパティにも影響することには注意しなければいけません。ちなみに脂溶性については、化合物 5 は cLogD=6.08、化合物 19 は cLogD=4.53 だそうで、物性も良くなる構造変化になっています。)
[論文] "Synthesis and biological activity of pyridopyridazin-6-one p38 MAP kinase inhibitors. Part 1" Bioorg. Med. Chem. Lett., 2011, 21, 411.
ヘテロ芳香族エーテルのコンホメーション [実例]
気ままに創薬化学 2011年01月25日
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『小さな命が呼ぶとき』 の動画 [英語]
2010 年 12 月発刊の創薬関連書籍 で簡単に紹介した映画 『小さな命が呼ぶとき』 ですが、日本語訳する前の英語版ハリウッド映画 "Extraordinary Measures" の動画がありました。治療薬のない難病のポンペ病の子供を持つ父親ジョン・クラウリーがポンぺ病の権威の科学者に会いに行き、それまでのキャリアを捨てて治療薬を開発する会社を設立して奔走する様が描かれた作品。ストーリーが感動的なのはもちろん、創薬にかける情熱、サイエンスとビジネス、創薬研究者と患者の距離感など、創薬に関わる人は考えさせられる部分のある映画だと思います。
※ 動画は 1 時間 46 分もありますので会社や研究室のパソコンではなく自宅のパソコンで視聴されることをオススメします (すべて英語です)。動画を見るためには下の赤丸をクリックすると緑丸になるので、緑丸をクリックすると動画が再生されます。赤丸をクリックしたときにウイルスバスターの広告が出ることがありますが、このブラウザは閉じて構いません (私が貼った広告ではなく動画自体の設定です)。動画の再生が始まったら一時停止を押してしばらく読み込むまで待ってください。すぐに見ようとすると頻繁に読み込みになってイライラします。
『小さな命が呼ぶとき』 の動画 [英語]
ちなみに、日本語版の 『小さな命が呼ぶとき』 の DVD は昨年 12 月に発売、Amazon では
[関連] 『小さな命が呼ぶとき』 のその後 (気ままに創薬化学)
気ままに創薬化学 2011年01月20日
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アゾール系 NH の pKa は窒素数と比例関係 [補足]
先日投稿した アゾール系 NH の pKa は窒素数と比例関係 の補足説明です。補足は 2 点で両方とも下図に関するものです。
[補足1] 上図のペンタゾールのプロットに括弧が付いていますが、これはペンタゾールがこの直線に乗ると仮定した場合の pKa の値になります、つまり推定値です。窒素上が水素原子のペンタゾールは不安定で、詳しい性質はまだ明らかになっていないようです (pentazole-Wikipedia)。
[補足2] 上図の値は計算値ではないのかという指摘をいただきました。計算値だとすると計算方法のためにこのような相関になっている可能性があるので、考慮する必要があります。図の引用元は Handbook of Heterocyclic Chemistry, Third Edition という書籍で、基本的には説明もリファレンスも充実しているのですが、この図に関する説明部分にはデータが実測か計算かの記述はなく、なぜかリファレンスもありません (私の見落としでなければ)。
そこで、自分の手で実測値を使ってこの図の再現を試みることにしました。pKa (DMSO, 25℃) の値は、Acc. Chem. Res. 1988, 21, 456. から引用しました (Bordwell pKa Table にも書かれていますが、ピロール pKa=23.0、イミダゾール 18.6、ピラゾール 19.8、1,2,3-トリアゾール 13.9、1,2,4-トリアゾール 14.8、テトラゾール 8.2)。論文によると、これらの値は Bordwell 研で測定されたものだそうです (ただし、pKa の詳細な測定方法等までは確認していません)。これらをプロットすると下の図になりました。
すると先の書籍の図と同様の高い相関を再現することができました。ただし、溶媒や温度が違うためだと思われますが縦軸の pKa の値は少し異なっています。以上のことから、上の相関は実測値でも成り立つものだと考えています。もし何か問題点、お気づきの点などがあればコメント欄でご連絡ください。
[補足1] 上図のペンタゾールのプロットに括弧が付いていますが、これはペンタゾールがこの直線に乗ると仮定した場合の pKa の値になります、つまり推定値です。窒素上が水素原子のペンタゾールは不安定で、詳しい性質はまだ明らかになっていないようです (pentazole-Wikipedia)。
[補足2] 上図の値は計算値ではないのかという指摘をいただきました。計算値だとすると計算方法のためにこのような相関になっている可能性があるので、考慮する必要があります。図の引用元は Handbook of Heterocyclic Chemistry, Third Edition という書籍で、基本的には説明もリファレンスも充実しているのですが、この図に関する説明部分にはデータが実測か計算かの記述はなく、なぜかリファレンスもありません (私の見落としでなければ)。
そこで、自分の手で実測値を使ってこの図の再現を試みることにしました。pKa (DMSO, 25℃) の値は、Acc. Chem. Res. 1988, 21, 456. から引用しました (Bordwell pKa Table にも書かれていますが、ピロール pKa=23.0、イミダゾール 18.6、ピラゾール 19.8、1,2,3-トリアゾール 13.9、1,2,4-トリアゾール 14.8、テトラゾール 8.2)。論文によると、これらの値は Bordwell 研で測定されたものだそうです (ただし、pKa の詳細な測定方法等までは確認していません)。これらをプロットすると下の図になりました。
すると先の書籍の図と同様の高い相関を再現することができました。ただし、溶媒や温度が違うためだと思われますが縦軸の pKa の値は少し異なっています。以上のことから、上の相関は実測値でも成り立つものだと考えています。もし何か問題点、お気づきの点などがあればコメント欄でご連絡ください。
気ままに創薬化学 2011年01月14日
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アゾール系 NH の pKa は窒素数と比例関係
昨年 10 月発売の Handbook of Heterocyclic Chemistry, Third Edition より、ちょっと感動した相関関係を紹介します。何と、アゾール系化合物の NH の pKa は窒素数と綺麗な比例関係にあるというのです。
言葉で表すとわかりにくいですが、下図を見れば一目瞭然ですね。窒素数が 1 つ増えると pKa は約 4 ずつ下がり、窒素の位置は NH の pKa にはあまり影響しないようです (イミダゾールとピラゾールはほぼ同じ、トリアゾールの異性体もほぼ同じ)。テトラゾールがカルボン酸の生物学的等価体としても使われることから、窒素数を増やせば酸性度が増すことは感覚的にわかってましたが、こんなに綺麗な相関になるとは・・・。
また、ベンゾアゾール系化合物でも同様の相関があります。
ちなみに、ベンゾアゾール系化合物でベンゼン環の炭素を窒素に置換しても pKa は下がりますが、その効果はピロール環の置換に比べて小さいようです (例えば、ベンズイミダゾールの pKa=13.2 に対して、プリンの pKa=8.9)。
私はこのアゾール系 NH の pKa と窒素数の比例関係についてはこの本を読むまで知りませんでした。もし他に興味深い相関関係をご存知でしたらコメント欄でお知らせいただけると幸いです。
[関連] アゾール系 NH の pKa は窒素数と比例関係 [補足] (気ままに創薬化学)
言葉で表すとわかりにくいですが、下図を見れば一目瞭然ですね。窒素数が 1 つ増えると pKa は約 4 ずつ下がり、窒素の位置は NH の pKa にはあまり影響しないようです (イミダゾールとピラゾールはほぼ同じ、トリアゾールの異性体もほぼ同じ)。テトラゾールがカルボン酸の生物学的等価体としても使われることから、窒素数を増やせば酸性度が増すことは感覚的にわかってましたが、こんなに綺麗な相関になるとは・・・。
また、ベンゾアゾール系化合物でも同様の相関があります。
ちなみに、ベンゾアゾール系化合物でベンゼン環の炭素を窒素に置換しても pKa は下がりますが、その効果はピロール環の置換に比べて小さいようです (例えば、ベンズイミダゾールの pKa=13.2 に対して、プリンの pKa=8.9)。
私はこのアゾール系 NH の pKa と窒素数の比例関係についてはこの本を読むまで知りませんでした。もし他に興味深い相関関係をご存知でしたらコメント欄でお知らせいただけると幸いです。
[関連] アゾール系 NH の pKa は窒素数と比例関係 [補足] (気ままに創薬化学)
気ままに創薬化学 2011年01月09日
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2010年12月発刊の創薬関連書籍
今月の新刊で目立つのは 小さな命が呼ぶとき [DVD]、珍しく製薬関係の映画です。今年の夏に公開された映画が早くも DVD 化されました。詳しいあらすじなどは wikipedia を参照していただきたいのですが、簡単に言えば、治療薬のない難病のポンペ病の子供を持つ父親ジョン・クラウリーがポンぺ病の権威の科学者に会いに行き、それまでのキャリアを捨てて治療薬を開発する会社を設立して奔走する様が描かれた作品。ちなみに、この話は実話に基づいて作られた映画で、ジョンは現在もポンぺ病の治療薬の開発に取り組んでいます。映画にはないその後の話も、近々このブログで紹介したいと思います。
[関連書籍1] 小さな命が呼ぶとき〈上〉、〈下〉
[関連書籍2] 奇跡は起こせる わが子を救うため、新薬開発に挑戦したビジネスマン
小さな命が呼ぶとき 予告編
◆ 和書 (全般)
・ 小さな命が呼ぶとき [DVD]
・ 医薬品業界 新薬戦略・激変地図
・ 医薬品ビジネスの会計ガイドブック
・ あなたの液クロ正常ですか?
◆ 洋書 (全般)
・ Changing Innovation in the Pharmaceutical Industry: Globalization and New Ways of Drug Development
・ New Frontiers in Chemical Biology: Enabling Drug Discovery
・ Biopharmaceutical Drug Design and Development
・ Medicinal Organometallic Chemistry
・ Principles of Regenerative Medicine, Second Edition
・ Career Management for Chemists: A Guide to Success in a Chemistry Career
・ Principles and Practice of Pharmaceutical Medicine
・ Integrative Neuroscience and Personalized Medicine
・ Drug Discovery and Evaluation: Methods in Clinical Pharmacology
・ Intelligent Macromolecules for Smart Devices: From Materials Synthesis to Device Applications
・ High Content Screening
・ Structure-Based Drug Design Experimental and Computational Approaches
◆ 洋書 (ケモインフォ・バイオインフォ)
・ Bioinformatics and Drug Discovery
・ Computational Intelligence in Biomedicine and Bioinformatics: Current Trends and Applications
・ Data Mining in Bioinformatics
◆ 洋書 (標的別・疾患別)
・ 5-HT2c Receptors in the Pathophysiology of CNS Disease
・ Phosphoinositide 3-kinase in Health and Disease
・ Catecholamine Research: From Molecular Insights to Clinical Medicine
・ Novel Targeted Drugs for the Treatment of Lymphoma: The Biological Basis for Innovative Drug Discovery and Development
・ Chemokine Receptors as Drug Targets
・ Role of Proteases in the Pathophysiology of Neurodegenerative Diseases
・ Cytokines in Human Health: Immunotoxicology, Pathology, and Therapeutic Applications
◆ 洋書 (癌関連)
・ DNA Methylation and Cancer Therapy
・ Platinum-Based Drugs in Cancer Therapy
・ Cancer Proteomics: From Bench to Bedside
・ Gene Therapy for Cancer
気ままに創薬化学 2011年01月06日
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