最近の生物学的等価体まとめ

JMC の ASAP に "Synopsis of Some Recent Tactical Application of Bioisosteres in Drug Design" という perspective が出ていました [論文]。63 ページという長編ですので敬遠されている方もいるかもしれませんが、良著ですのでまだ読まれていない方には一読をお勧めします。(著者は BMS の Nicholas A. Meanwell 氏の単著。一人で書きあげる苦労を思うと読むのが少し楽になるかも)

最近の生物学的等価体についてまとめたもので、大見出しだけ抜粋すると以下の 15 項目になります。重水素、フッ素、ケイ素、硫黄、シクロプロピル基、各官能基の水素結合能や pKa などなど、創薬化学の話題が盛りだくさんです。内容もただ 「こういう置換をしました、活性はこうなりました」 というだけでなく、立体配座・物性・ADMET などに与える効果やその置換の狙いについても創薬化学の視点からうまくまとめてあります。

 ・ Isosteres of Hydrogen
 ・ Isosteres of Carbon and Alkyl Moieties
 ・ N Substitution for CH in Benzene Rings
 ・ Biphenyl and Phenyl Mimetics
 ・ Phenol, Alcohol, and Thiol Isosteres
 ・ Hydroxamic Acid Isosteres
 ・ Carboxylic Acid Isosteres
 ・ Isosteres of Heterocycles
 ・ Isosteres of the Nitro Group
 ・ Isosteres of Carbonyl Moieties
 ・ Ether/sulfone and glyoxamide/sulfone isosterism
 ・ Urea isosteres
 ・ Guanidine and Amidine Isosteres
 ・ Phosphate and Pyrophosphate Isosteres
 ・ Isosteres of Ligand-Water Complexes

この文献の著者の方が私よりもはるかに造詣が深いと思いますが、少し興味の範囲が重なっているようで、このブログで取り上げた以下の 5 つの記事の内容もこの論文でも紹介されています。これらの記事に興味をもった方には特に上の文献をオススメします。

 ・ シクロプロピル基の 3 つの効果
 ・ ヘテロ芳香族エーテルのコンホメーション
 ・ フッ素を入れて脂溶性を下げる
 ・ フッ素を入れてアミドの向きを制御する
 ・ オキセタンの創薬化学

[論文] "Synopsis of Some Recent Tactical Application of Bioisosteres in Drug Design" J. Med. Chem. Article ASAP

気ままに創薬化学 2011年03月29日 | Comment(2) | 相互作用・配座・等価体

reaxys の反応マッピングでひと手間減らす方法

今回は reaxys の反応マッピングでひと手間減らす方法を紹介したいと思います (描画ソフトは標準の MarvinSketch)。反応マッピングとは反応検索で反応前後の原子の対応付けを行う操作のことです。つまり 「基質のこの原子が生成物のこの原子だよ」 というのを指定してやるわけです。これをしないと結果にノイズが多くなってしまいます。

通常の反応マッピング方法は Elsevier の サポートページ検索で有用なテクニック集 (MarvinSketch版) にも書かれていますが、下図のように reaction arrow ボタンで基質と生成物の間に矢印を書いて、その後 atom map ボタンから manual atom map を選択して基質の原子と生成物の原子をマウスドラッグで結ぶのが正攻法です。


しかし、実は reaction arrow ボタンを選択したまま atom map もできるのです。


reaction arrow ボタンのまま、基質の原子と生成物の原子をマウスドラッグで結ぶだけで下図のように atom map することができました。つまり、基質と生成物を reaction arrow でつないで、そのまま atom map すればいいのです。これによって 「atom map ボタンから manual atom map を選択する」 というひと手間を減らすことができます。普段よく反応検索する人にとっては、塵も積もれば山となる的に、結構な手間と時間の節約になるのではないでしょうか。


ちなみに、atom map ボタンから manual atom map を選択すると、下図のように reaction arrow と同じアイコンになりますので、実は本質的に同じなのではないかと個人的には思っています。


もし他に reaxys や SciFinder などでコツや小技などをご存知でしたら是非コメントください。

気ままに創薬化学 2011年03月26日 | Comment(2) | コーヒーブレイク

酸に安定な Boc 等価体

2011 年、大正製薬からの報告 [論文]。acetyl-CoA carboxylase (ACC) 阻害剤の研究で、下図のような Boc 基 (R=CH3) をもつ化合物を見出だしましたが、当然のことながら酸性条件では外れてしまい、胃液を模した条件 (pH 1.2、37 ℃、3 h のインキュベーション) での残存率は 23 % だったそうです。

酸で Boc が外れるのは t-butyl カチオンが安定なためなので、カチオンを不安定化するためにフッ素原子を導入した F-Boc 体 (R=CH2F) と triF-Boc 体 (R=CF3) をデザイン。実際に合成して評価したところ、酸性条件での安定性が大幅に改善したそうです (同条件で残存率はそれぞれ 98 %、100 %。どちらも活性も保持しています)。フッ素原子ひとつでも劇的な効果ですね。


[論文] "Discovery of novel (4-piperidinyl)-piperazines as potent and orally active acetyl-CoA carboxylase 1/2 non-selective inhibitors: F-Boc and triF-Boc groups are acid-stable bioisosteres for the Boc group" Bioorg. Med. Chem. 2011, 19, 1580.

気ままに創薬化学 2011年03月21日 | Comment(0) | 相互作用・配座・等価体

結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上3


結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上1 ではベンジル位にエチル基を導入することで、結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上2 ではオルト位への置換基導入によって平面性を崩す、あるいは分子全体の対称性を崩すことで溶解度を向上させる構造変換を紹介しました。

つい最近、JMC の perspective に、結晶パッキングを崩すことによる溶解性向上についてまとめた文献が出ていました [論文]。著者は東京大学の橋本祐一研究室の石川稔助教。結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上2 で紹介した論文の corresponding auther でもあります。論文には分子の平面性や対称性を崩すことで溶解性を上げる方策が、多数の具体例とともに紹介されています。この分野に興味がある方は、一度目を通してみてはいかがでしょうか。

[論文] "Improvement in Aqueous Solubility in Small Molecule Drug Discovery Programs by Disruption of Molecular Planarity and Symmetry" J. Med. Chem., Article ASAP.

気ままに創薬化学 2011年03月04日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許