前回の 芳香族クロリドをニトリルへ、創薬化学と合成化学 では、大きく脂溶性を下げる効果があることと一段階で変換する反応開発が進んでいることを紹介しました。今回は、芳香族クロリドをニトリルにすることで反応性代謝物を低減することに成功した例を紹介しましょう [論文1]。
Bristol-Myers Squibb の CRF1 (Corticotropin-Releasing Factor-1) 受容体アンタゴニストは下図左端のような 5-Cl pyrazinone で展開していたようですが、詳細な代謝物検索の結果、pyrazinone 5, 6 位でエポキシ化され、グルタチオン付加体を与えることがわかりました。そこでクロロ基をブロモ基、メチル基、ニトリル基で置き換えた化合物を合成したところ、IC50 はすべて 1-9 nM で保持、pyrazinone 環の反応性代謝物はニトリルの場合のみ大きく低減しました。
ニトリル基による反応性代謝物低減の理由として、論文ではニトリル基がクロロ基やブロモ基よりも電子求引性が高いため電子密度が下がり酸化を受けにくくなるからだとしています (個人的には、それに加えて脂溶性が下がる効果によるところもあるかと思います)。
ちなみに、pyrizinone 環の反応性代謝物を低減する別の方法として pyrazinone 6 位の炭素を窒素に置き換えた triazinone にする方法も別論文で報告されています [論文2]。なお、ベンゼン環の方も反応性代謝物を生成するようで、それを防ぐためにベンゼン環をピリジン環にする方法や、代謝の "soft spot" として側鎖にメチルエーテルを導入するなど、反応性代謝物の回避へ向けて種々の手が尽くされています [論文3]。
[論文1] "Comparative Biotransformation of Pyrazinone-Containing Corticotropin-Releasing Factor Receptor-1 Antagonists: Minimizing the Reactive Metabolite Formation" Drug Metab. Dispos. 2010, 38, 5.
[論文2] "5-Arylamino-1,2,4-triazin-6(1H)-one CRF1 receptor antagonists" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2010, 20, 3579.
[論文3] "A Strategy to Minimize Reactive Metabolite Formation: Discovery of (S)-4-(1-Cyclopropyl-2-methoxyethyl)-6-[6-(difluoromethoxy)-2,5-dimethylpyridin-3-ylamino]-5-oxo-4,5-dihydropyrazine-2-carbonitrile as a Potent, Orally Bioavailable Corticotropin-Releasing Factor-1 Receptor Antagonist" J. Med. Chem. 2009, 52, 7653.
芳香族クロリドをニトリルへ、反応性代謝物の低減
気ままに創薬化学 2011年04月24日
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芳香族クロリドをニトリルへ、創薬化学と合成化学
2010 年、Pfizer の芳香族クロリドからニトリルへの変換のレビュー [論文1]。ざっくりと内容をまとめると以下の 5 点のような感じでしょうか。
1) 芳香族クロリドをニトリルに変換しても同程度の活性を示すことが多い (経験的に)。
2) クロロベンゼンの LogP は 2.84、ベンゾニトリルは 1.56 であり、脂溶性を大きく下げる。
3) 上記の結果、LipE が上がり、代謝安定性が上がることが多い。 (溶解性や毒性なども)
4) 市販薬の中には元々芳香族クロリドだった部分をニトリルに変換したものもいくつもある。
5) 芳香族クロリド → ニトリルの反応研究が進み、立体的・電子的に反応しにくいものも変換可能に。
Pfizer の NNRTI (Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitors)
合成展開している化合物が芳香族クロリドを含む場合には、一度ニトリルにしてみる価値はあるかもしれませんね。なお、同 2010 年にニトリルの創薬化学のレビュー [論文2] も出ていますので、興味ある方はあわせてどうぞ。
[論文1] "Aromatic chloride to nitrile transformation: medicinal and synthetic chemistry" Med. Chem. Commun., 2010, 1, 309.
[論文2] "Nitrile-Containing Pharmaceuticals: Efficacious Roles of the Nitrile Pharmacophore" J. Med. Chem., 2010, 53, 7902.
1) 芳香族クロリドをニトリルに変換しても同程度の活性を示すことが多い (経験的に)。
2) クロロベンゼンの LogP は 2.84、ベンゾニトリルは 1.56 であり、脂溶性を大きく下げる。
3) 上記の結果、LipE が上がり、代謝安定性が上がることが多い。 (溶解性や毒性なども)
4) 市販薬の中には元々芳香族クロリドだった部分をニトリルに変換したものもいくつもある。
5) 芳香族クロリド → ニトリルの反応研究が進み、立体的・電子的に反応しにくいものも変換可能に。
Pfizer の NNRTI (Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitors)
合成展開している化合物が芳香族クロリドを含む場合には、一度ニトリルにしてみる価値はあるかもしれませんね。なお、同 2010 年にニトリルの創薬化学のレビュー [論文2] も出ていますので、興味ある方はあわせてどうぞ。
[論文1] "Aromatic chloride to nitrile transformation: medicinal and synthetic chemistry" Med. Chem. Commun., 2010, 1, 309.
[論文2] "Nitrile-Containing Pharmaceuticals: Efficacious Roles of the Nitrile Pharmacophore" J. Med. Chem., 2010, 53, 7902.
気ままに創薬化学 2011年04月13日
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気ままに創薬化学 2011年04月07日
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