今回は CH-N 水素結合から S-N 相互作用へと展開した例を 2 つ紹介しましょう。1 つめは 2005 年の JMC より、Vertex Pharmaceuticals 社の GSK3 阻害剤 [論文1]。ピラゾールの CH-N 水素結合からチアゾール S-N 相互作用へと展開。Ki はピラゾール体が 24 nM、チアゾール体が 150 nM。
2 つめは 2010 年の BMCL より、AstraZeneca 社の JAK2 阻害剤 [論文2]。上と同様にピラゾールの CH-N 水素結合からチアゾール S-N 相互作用へと展開。IC50 はピラゾール体が <0.003 μM、チアゾール体が 0.004 μM。上の論文がきちんと引用されています。
モチーフはほとんど同じですが、2 つの異なる標的に有効なので、汎用性のある相互変換と言えるかもしれません。CH-N 水素結合と S-N 相互作用、もし類似のモチーフを扱う機会があれば試してみてはいかがでしょうか。
[論文1] "CH・・・O and CH・・・N Hydrogen Bonds in Ligand Design: A Novel Quinazolin-4-ylthiazol-2-ylamine Protein Kinase Inhibitor" J. Med. Chem., 2005, 48, 1278.
[論文2] "Replacement of pyrazol-3-yl amine hinge binder with thiazol-2-yl amine: Discovery of potent and selective JAK2 inhibitors" Bioorg. Med. Chem. Lett., 2010, 20, 1669.
CH-N 水素結合と S-N 相互作用
気ままに創薬化学 2011年08月29日
| Comment(0)
| 相互作用・配座・等価体
2011年7月発刊の創薬関連書籍
◆ 和書
・ 科学者のための英文手紙・メール文例集 CDーROM付き
・ まずはこれから!医薬翻訳者のための英語
・ カラー版 ラング・デール薬理学
◆ 洋書
・ Medicinal Chemistry and Pharmacological Potential of Fullerenes and Carbon Nanotubes
・ The Science and Business of Drug Discovery: Demystifying the Jargon
・ Controlled Pulmonary Drug Delivery
・ Ion Channels and Their Inhibitors
・ Chemogenomics and Chemical Genetics: User's Introduction for Biologists, Chemists and Informaticians
・ Bioinformatics in Cancer and Cancer Therapy
・ Matrix Metalloproteinase Inhibitors in Cancer Therapy
気ままに創薬化学 2011年08月15日
| Comment(0)
| 月別創薬関連書籍
フッ素の ax/eq でピペリジンの pKa をチューニング
論文は モノフルオロエチルアミン構造のリスク で紹介したものと同じ 2008 年 Merck の kinesin spindle protein (KSP) 阻害薬に関する報告。下図左端の化合物は Pgp によって排出されることが分かり、これの回避を企図して塩基性を下げるために種々の方策を展開。
まず、ピペリジン上のメチル基をフルオロエチル基に変換することで pKa は 8.8 から 7.6 まで低下し Pgp も改善しましたが モノフルオロエチルアミン構造のリスク で紹介したとおりモノフルオロ酢酸生成による毒性が出てしまいます。次に、ピペリジン上のメチル基をシクロプロピル基に変換することで pKa は 7.5 まで低下し Pgp も改善しましたが 反応性代謝物のアラート構造、回避へ向けた構造変換 の文献でも紹介されているシクロプロピルアミン由来の反応性代謝物が出てしまいました。
さらに、フッ素をピペリジン環上に導入した化合物をエナンチオマー含めて 4 つ合成。より活性の強い方の cis と trans のアイソマーが上図右の 2 つです。このとき、アキシャルにフッ素をもつものは pKa=7.6、エカトリアルにフッ素をもつものは pKa=6.6。エカトリアルの方は pKa を下げすぎたのか活性がやや弱かったためアキシャルの方が臨床候補化合物に選ばれました。
ピペリジンのエカトリアルフッ素体の方がアキシャルフッ素体よりも pKa が下がるという知見は 1999 年の JMC にも報告 [論文] があり、汎用性のある pKa のチューニング法と言えるかもしれません。エカトリアルとアキシャルの pKa の違いについては、アキシャルの場合プロトン化された NH と CF の双極子が並行で逆向きだからと説明されています。気ままに有機化学の アキシャルに立つとき で紹介したコンホメーション変化と同じですね。
[論文] "Fluorination of 3-(3-(Piperidin-1-yl)propyl)indoles and 3-(3-(Piperazin-1-yl)propyl)indoles Gives Selective Human 5-HT1D Receptor Ligands with Improved Pharmacokinetic Profiles" J. Med. Chem. 1999, 42, 2087.
[関連] アミンの塩基性を予測する調整する (気ままに創薬化学)
[関連] アミンの塩基性を下げて膜透過性を改善する (気ままに創薬化学)
まず、ピペリジン上のメチル基をフルオロエチル基に変換することで pKa は 8.8 から 7.6 まで低下し Pgp も改善しましたが モノフルオロエチルアミン構造のリスク で紹介したとおりモノフルオロ酢酸生成による毒性が出てしまいます。次に、ピペリジン上のメチル基をシクロプロピル基に変換することで pKa は 7.5 まで低下し Pgp も改善しましたが 反応性代謝物のアラート構造、回避へ向けた構造変換 の文献でも紹介されているシクロプロピルアミン由来の反応性代謝物が出てしまいました。
さらに、フッ素をピペリジン環上に導入した化合物をエナンチオマー含めて 4 つ合成。より活性の強い方の cis と trans のアイソマーが上図右の 2 つです。このとき、アキシャルにフッ素をもつものは pKa=7.6、エカトリアルにフッ素をもつものは pKa=6.6。エカトリアルの方は pKa を下げすぎたのか活性がやや弱かったためアキシャルの方が臨床候補化合物に選ばれました。
ピペリジンのエカトリアルフッ素体の方がアキシャルフッ素体よりも pKa が下がるという知見は 1999 年の JMC にも報告 [論文] があり、汎用性のある pKa のチューニング法と言えるかもしれません。エカトリアルとアキシャルの pKa の違いについては、アキシャルの場合プロトン化された NH と CF の双極子が並行で逆向きだからと説明されています。気ままに有機化学の アキシャルに立つとき で紹介したコンホメーション変化と同じですね。
[論文] "Fluorination of 3-(3-(Piperidin-1-yl)propyl)indoles and 3-(3-(Piperazin-1-yl)propyl)indoles Gives Selective Human 5-HT1D Receptor Ligands with Improved Pharmacokinetic Profiles" J. Med. Chem. 1999, 42, 2087.
[関連] アミンの塩基性を予測する調整する (気ままに創薬化学)
[関連] アミンの塩基性を下げて膜透過性を改善する (気ままに創薬化学)
気ままに創薬化学 2011年08月02日
| Comment(0)
| ADMET・物性・特許