トシルヒドラゾンのカップリング反応 (2)

トシルヒドラゾンのカップリング反応 (1) ではトシルヒドラゾン (トシルヒドラジン + カルボニル化合物) とアリールハライドのパラジウム触媒によるカップリング反応を紹介しました。今回は、パラジウム触媒を必要としない、トシルヒドラゾンのカップリング反応を 2 つ紹介します。前回と同じく Jose Barluenga 教授と Carlos Valdes 准教授らのグループの報告です。

1 つ目はトシルヒドラゾンとボロン酸のカップリング反応 [論文1]。トシルヒドラゾンとボロン酸を炭酸カリウム存在下ジオキサン中で加熱するだけで還元的なカップリングが起きます。この反応は官能基許容性が高く、アルデヒド・ケトン・エステル・ニトリル・アリールハライド・無保護のアニリン・ピリジン・フラン・無保護のイミダゾール・無保護のインドールなどの存在下でも反応が進行します。また、トシルヒドラゾンもボロン酸もアリールタイプのみならずアルキルタイプの基質でも大丈夫。さらに、アルデヒドやケトンからのヒドラゾン化 → カップリングの one-pot 反応も可能です。市販のボロン酸は多数ありますので、創薬化学の誘導体合成に向いているのではないでしょうか。


ちなみに、上の反応は 2009 年の Nature Chemistry に報告されたものですが、2011 年の ChemMedChem には、この反応を Drug-like な分子や Fragment-like な分子の合成に使えそうという Pfizer 社の報告もあります [論文2]

さて、2 つ目はトシルヒドラゾンとフェノール・アルコールのカップリング反応 [論文3]。ボロン酸の代わりにアルコールやフェノールでもパラジウムなしでカップリングが起こります。この反応も官能基許容性が高く、またカルボニル化合物からの one-pot 反応も可能です。また、最近別のグループからフェノールの代わりにチオフェノールでも同様の反応が進行することが報告されています [論文4]


創薬化学で扱う骨格によっては、トシルヒドラゾン中間体からこれらの反応を使って簡便に多数の誘導体合成ができるのではないでしょうか。

最後に、トシルヒドラゾンの反応については最近 Jose Barluenga グループからレビュー [論文5] が出ていますし、Jose Barluenga 教授の他の業績について知りたい方には Baran Lab のセミナー資料 (pdf) がよくまとまっていますので、ご興味もたれた方はごれらの文献もご参照ください。

[論文1] "Metal-free carbon–carbon bond-forming reductive coupling between boronic acids and tosylhydrazones" Nature Chemistry 2009, 1, 494.
[論文2] "Application of Barluenga Boronic Coupling (BBC) to the Parallel Synthesis of Drug-like and Drug Fragment-like Molecules" ChemMedChem Early View.
[論文3] "Straightforward Synthesis of Ethers: Metal-Free Reductive Coupling of Tosylhydrazones with Alcohols or Phenols" Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 4993.
[論文4] "Synthesis of thioethers via metal-free reductive coupling of tosylhydrazones with thiols" Org. Biomol. Chem. 2011, 9, 748.
[論文5] "Tosylhydrazones: New Uses for Classic Reagents in Palladium-Catalyzed Cross-Coupling and Metal-Free Reactions" Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 7486.

気ままに創薬化学 2011年12月31日 | Comment(0) | 合成化学

トシルヒドラゾンのカップリング反応 (1)

今回と次回の 2 回にわけて、創薬化学に使えそうなトシルヒドラゾンのカップリング反応を紹介します。

4-aryl tetrahydropyridine (あるいはそれを還元した 4-aryl piperidine) 骨格は医薬品によく見られる scaffold の 1 つです。この骨格をピペリドンとアリールハライドから合成するには、@ ピペリドンの窒素を保護、A ピペリドンのカルボニルをエノールスルホナートへ、B それをホウ素など金属に置き換え、C アリールハライドとカップリング、D 脱保護、というのが一般的かと思います。実際には、単純なピペリドンの場合には B まで済んだ試薬が高価ながら市販されていますが、より複雑なケトンになるとこの 5 段階の反応を経なければなりません。


しかし、トシルヒドラゾンのカップリング反応を使えばこれを 1 段階で行えるのです [論文]。Jose Barluenga 教授と Carlos Valdes 准教授らのグループはトシルヒドラゾンとアリールハライドがカップリング反応を起こすことを発見し、さらにそれをワンポット化してカルボニル化合物とトシルヒドラジンとアリールハライドでカップリング可能なことを見出だしました。

この反応は、アリールハライドとしてブロモ基・クロロ基が使用可能、電子求引性・電子供与性の種々の置換基やオルト位ジメチル置換基も許容、π―過剰系・π―欠如系の種々のヘテロ環でも進行、さらにピペリドンの窒素無保護でもヒドラゾン側で反応し N-アリール化反応は全く起こらない、無水ではなく reagent grade のジオキサンを使ったりアルゴン下ではなく空気下で反応を行ってもほとんど同じ収率、などとても使いやすい反応のようです。カルボニル化合物はピペリドンに限らず様々なケトンやアルデヒドを反応させることができます。つまり、トシルヒドラジンを加えるだけで、カルボニル化合物を求核的なカップリング剤として使うことができるのです。


次回、トシルヒドラゾンのカップリング反応 (2) では、遷移金属を使わない驚きのカップリング反応を紹介します。

[論文] "Pd-Catalyzed Cross-Coupling Reactions with Carbonyls: Application in a Very Efficient Synthesis of 4-Aryltetrahydropyridines" Chem. Eur. J. 2008, 14, 4792.

気ままに創薬化学 2011年12月26日 | Comment(0) | 合成化学

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気ままに創薬化学 2011年12月11日 | Comment(0) | 月別創薬関連書籍

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気ままに創薬化学 2011年12月01日 | Comment(0) | サイト・ツール・本