芳香族アミドのコンホメーション制御に関する記事がそろってきましたので、一度まとめておきます。共有結合による固定化や窒素や酸素の分子内水素結合を介した例は多数ありますので、このブログではあえてそれら以外のコンホメーション効果について取り上げてきました。合成展開の参考や構造活性相関の解釈の材料になれば幸いです。
・ ピリジン窒素でアミドの向きを制御する
・ ピリジン窒素でアミドの向きを制御する (2)
・ オルト位フッ素でアミドの向きを制御する
・ オルト位メチル基でアミドの向きを制御する
・ 芳香族N-メチルアミドのcis型優先性
・ 結晶構造に見られるピリジン環 2 位置換基の配座
芳香族アミドのコンホメーション制御法まとめ
気ままに創薬化学 2012年03月23日
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オルト位メチル基でアニリンの向きを制御する
昨日の オルト位メチル基でアミドの向きを制御する と類似のコンホメーション制御について。
イマチニブ (imatinib) へ向けた最適化の過程で、下図のようにアニリンオルト位にメチル基を導入することでコンホメーションが制御され、活性と選択性が向上したそうです [論文1]。メチル基ひとつで活性がガラリと変わる (増強 or 減弱) こともあると思いますが、こうしたコンホメーション変化に由来することもあるので構造活性相関の解釈には注意が必要ですね。
なお、創薬化学におけるメチル基の影響については 2011 年の Chem. Rev. にまとめられています [論文2]。
[論文1] "Phenylamino-pyrimidine (PAP) − derivatives: a new class of potent and highly selective PDGF-receptor autophosphorylation inhibitors" Bioorg. Med. Chem. Lett. 1996, 6, 1221.
[論文2] "The Methylation Effect in Medicinal Chemistry" Chem. Rev. 2011, 111, 5215.
イマチニブ (imatinib) へ向けた最適化の過程で、下図のようにアニリンオルト位にメチル基を導入することでコンホメーションが制御され、活性と選択性が向上したそうです [論文1]。メチル基ひとつで活性がガラリと変わる (増強 or 減弱) こともあると思いますが、こうしたコンホメーション変化に由来することもあるので構造活性相関の解釈には注意が必要ですね。
なお、創薬化学におけるメチル基の影響については 2011 年の Chem. Rev. にまとめられています [論文2]。
[論文1] "Phenylamino-pyrimidine (PAP) − derivatives: a new class of potent and highly selective PDGF-receptor autophosphorylation inhibitors" Bioorg. Med. Chem. Lett. 1996, 6, 1221.
[論文2] "The Methylation Effect in Medicinal Chemistry" Chem. Rev. 2011, 111, 5215.
気ままに創薬化学 2012年03月22日
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オルト位メチル基でアミドの向きを制御する
2012 年、武田薬品の Melanin-Concentrating Hormone Receptor 1 Antagonists に関する報告 [論文1]。興味深いのは下記化合物のアシルアニリドのコンホメーション制御で、キノリン 6, 8 位にフッ素やメチル基を導入しています。
フッ素を入れた場合、オルト位フッ素でアミドの向きを制御する で紹介したようにアミド N-H とフッ素が水素結合する向きのコンホメーションが優先します。メチル基を導入すると、アミドカルボニル基とメチル基の立体反発を避けるコンホメーションが優先するそうです。下図は 8 位だけですが、論文では 6 位のフッ素体やメチル体 (逆のコンホメーションが優先する) も合成して選択性について議論されています。
さて、実際にはどのようなコンホメーションになるのでしょうか。個人的興味で類似構造の結晶情報を探してみました。N-(2,4-Dimethylphenyl)-2-methylbenzamide の結晶構造 [論文2] を見ると、確かにアニリドオルト位メチル基はアミド N-H と syn の向きになっています。ちなみに、ベンゾイルオルト位メチル基はアミド C=O と syn を向いており、おそらく逆を向くとアミド N-H とメチル基がぶつかるためだと思われます。ということで、結晶構造でも上と同じオルト位メチル基のコンホメーション効果が見られるようです。
ただし、結晶構造ではアニリン環とアミド平面は約 60 度ねじれており、ベンゾイル環とアミド平面も約 60 度ねじれています。通常これらの二面角は 0-30 度程度ですので、立体反発の少ないコンホメーションでも、少しはメチル基の立体障害を受けているのかもしれません。オルト位メチル基によるアミドの向きの制御をする際には、二面角が少しねじれる可能性があることも考慮に入れた方がいいかもしれません。
[論文1] "Melanin-Concentrating Hormone Receptor 1 Antagonists. Synthesis and Structure–Activity Relationships of Novel 3-(Aminomethyl)quinolines" J. Med. Chem. 2012, 55, 2353.
[論文2] "N-(2,4-Dimethylphenyl)-2-methylbenzamide" Acta Cryst. 2009, E65, o826. (open access)
[関連] オルト位メチル基でアニリンの向きを制御する (気ままに創薬化学)
フッ素を入れた場合、オルト位フッ素でアミドの向きを制御する で紹介したようにアミド N-H とフッ素が水素結合する向きのコンホメーションが優先します。メチル基を導入すると、アミドカルボニル基とメチル基の立体反発を避けるコンホメーションが優先するそうです。下図は 8 位だけですが、論文では 6 位のフッ素体やメチル体 (逆のコンホメーションが優先する) も合成して選択性について議論されています。
さて、実際にはどのようなコンホメーションになるのでしょうか。個人的興味で類似構造の結晶情報を探してみました。N-(2,4-Dimethylphenyl)-2-methylbenzamide の結晶構造 [論文2] を見ると、確かにアニリドオルト位メチル基はアミド N-H と syn の向きになっています。ちなみに、ベンゾイルオルト位メチル基はアミド C=O と syn を向いており、おそらく逆を向くとアミド N-H とメチル基がぶつかるためだと思われます。ということで、結晶構造でも上と同じオルト位メチル基のコンホメーション効果が見られるようです。
ただし、結晶構造ではアニリン環とアミド平面は約 60 度ねじれており、ベンゾイル環とアミド平面も約 60 度ねじれています。通常これらの二面角は 0-30 度程度ですので、立体反発の少ないコンホメーションでも、少しはメチル基の立体障害を受けているのかもしれません。オルト位メチル基によるアミドの向きの制御をする際には、二面角が少しねじれる可能性があることも考慮に入れた方がいいかもしれません。
[論文1] "Melanin-Concentrating Hormone Receptor 1 Antagonists. Synthesis and Structure–Activity Relationships of Novel 3-(Aminomethyl)quinolines" J. Med. Chem. 2012, 55, 2353.
[論文2] "N-(2,4-Dimethylphenyl)-2-methylbenzamide" Acta Cryst. 2009, E65, o826. (open access)
[関連] オルト位メチル基でアニリンの向きを制御する (気ままに創薬化学)
気ままに創薬化学 2012年03月21日
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ピリジン窒素でアミドの向きを制御する (2)
アミンの塩基性を下げて膜透過性を改善する で紹介した Merck の MK2 inhibitor の続報 [論文]。ピリジン窒素でアミドの向きを制御する と同様の、2-アシルアミノピリジンのコンホメーションに関する知見。
下図左のピリミジン誘導体とピリジン誘導体を比較すると、ピリジン誘導体の方が総じて 3-15 倍活性が強いという結果でした。下図右のコンホメーション計算を実施したところ、アミドカルボニルがピリジンと逆を向いた方が 9.3 kcal/mol も安定でした。これは、N-H…N(pyridine) と C=O…H-C(pyridine) の attractive な相互作用と、逆配座の N-H…H-C(pyridine) と C=O…N(pyridine) の repulsive な相互作用のためだと説明されています。一方でピリミジン誘導体には優先コンホメーションがなく、このため MK2 に結合するときにエントロピーロスが生じてしまいます。ちなみに、ピリジン誘導体の安定コンホメーションと活性コンホメーションがかなり近いことが共結晶から支持されています。
個人的に少し気になったのは、「ピリミジン誘導体には優先コンホメーションがない」とされていますが、結晶構造に見られるピリジン環 2 位置換基の配座 によるとアシルアミノピリジンは cis-アミドになることもあると指摘されています。trans-アミドで固定した配座探索で優先配座がないとしているだけではないかという気もします。実際の安定配座はどうなっているのでしょうか?
あと、共結晶ではピリジン窒素も酵素の主鎖のアミドと水素結合に関わっているようです。ピリミジンとピリジンではどちらがアミドとの水素結合が強いのでしょうか?塩基性はピリミジンよりもピリジンの方が強いと思いますが・・・。また、アミド N-H も相互作用しているようです。N-H の酸性度は感覚的にはピリミジンの方が高いように思いますが、水素結合能はどうでしょうか?論文ではコンホメーションが活性の違いの原因だとされていますが、これらの水素結合の強さの違いは活性へどれほど寄与しているのでしょうか?もし詳しい方がいらっしゃったら、コメントください。
[論文] "Novel ATP competitive MK2 inhibitors with potent biochemical and cell-based activity throughout the series" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2012, 22, 613.
下図左のピリミジン誘導体とピリジン誘導体を比較すると、ピリジン誘導体の方が総じて 3-15 倍活性が強いという結果でした。下図右のコンホメーション計算を実施したところ、アミドカルボニルがピリジンと逆を向いた方が 9.3 kcal/mol も安定でした。これは、N-H…N(pyridine) と C=O…H-C(pyridine) の attractive な相互作用と、逆配座の N-H…H-C(pyridine) と C=O…N(pyridine) の repulsive な相互作用のためだと説明されています。一方でピリミジン誘導体には優先コンホメーションがなく、このため MK2 に結合するときにエントロピーロスが生じてしまいます。ちなみに、ピリジン誘導体の安定コンホメーションと活性コンホメーションがかなり近いことが共結晶から支持されています。
個人的に少し気になったのは、「ピリミジン誘導体には優先コンホメーションがない」とされていますが、結晶構造に見られるピリジン環 2 位置換基の配座 によるとアシルアミノピリジンは cis-アミドになることもあると指摘されています。trans-アミドで固定した配座探索で優先配座がないとしているだけではないかという気もします。実際の安定配座はどうなっているのでしょうか?
あと、共結晶ではピリジン窒素も酵素の主鎖のアミドと水素結合に関わっているようです。ピリミジンとピリジンではどちらがアミドとの水素結合が強いのでしょうか?塩基性はピリミジンよりもピリジンの方が強いと思いますが・・・。また、アミド N-H も相互作用しているようです。N-H の酸性度は感覚的にはピリミジンの方が高いように思いますが、水素結合能はどうでしょうか?論文ではコンホメーションが活性の違いの原因だとされていますが、これらの水素結合の強さの違いは活性へどれほど寄与しているのでしょうか?もし詳しい方がいらっしゃったら、コメントください。
[論文] "Novel ATP competitive MK2 inhibitors with potent biochemical and cell-based activity throughout the series" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2012, 22, 613.
気ままに創薬化学 2012年03月12日
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2012年2月発刊の創薬関連書籍
◆ 和書
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◆ 洋書
・ Foye's Principles of Medicinal Chemistry
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・ Biological Inorganic Chemistry, Second Edition: A New Introduction to Molecular Structure and Function
・ Polymers in Nanomedicine
・ Nanomedicine and Nanobiotechnology
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・ Advances in Bio-Imaging: From Physics to Signal Understanding Issues, State-of-the-art and Challenges
・ Computational Modeling of Biological Systems: From Molecules to Pathways
・ The Minipig in Biomedical Research
・ Discoveries in Pharmacological Sciences
・ Appetite Control
・ Non-Fibrillar Amyloidogenic Protein Assemblies - Common Cytotoxins Underlying Degenerative Diseases
・ Handbook of Juvenile Forensic Psychology and Psychiatry
・ Stem Cells and Human Diseases
・ Adult and Embryonic Stem Cells
・ Statistics Applied to Clinical Studies
気ままに創薬化学 2012年03月04日
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