脂溶性を下げる構造変換に関する記事がそろってきましたので、一度まとめておきます。
脂溶性を下げるための構造変換として、下記の方策が一般的なように思われます。脂溶性部を削減あるいは PSA を増加させるようなアプローチです。これらの事例は多数あり、よく知られていますので、このブログではあえて取り上げることはしていません。
・ 脂溶性部位を削減する
・ 極性官能基を導入する
・ 炭素を窒素や酸素に置き換える
脂溶性部を削減しつつ PSA を増加させる構造変換のうち、最近の興味深い事例として、芳香族クロリドをニトリルへ変換する例が報告されています。
・ 芳香族クロリドをニトリルへ、創薬化学と合成化学
・ 芳香族クロリドをニトリルへ、反応性代謝物の低減
それから、単位 tPSA あたりの極性効果を強めるようなアプローチ (?) として、以下のような事例が挙げられます。
・ 環化させるだけで脂溶性は下がる
・ 増炭して脂溶性が下がるケース (1)
・ 増炭して脂溶性が下がるケース (2)
・ 増炭して脂溶性が下がるケース (3)
・ オキサジアゾールは 1,3,4 が 1,2,4 よりも低脂溶性
・ 予想以上に低脂溶性 2H-quinolizin-2-one
・ 芳香環に窒素を入れても脂溶性が下がるとは限らない
・ メトキシ基がエチル基とほぼ同じになるとき
・ フッ素を入れて脂溶性を下げる
どの方法が優れているというようなことはなく、ケースバイケースで様々なアプローチを試みることで、主活性・動態・毒性・物性などバランスのよい化合物の取得に役立つのではないかと私は思います。これらの記事が合成展開の参考や構造-脂溶性相関の解釈の材料になれば幸いです。もし他に興味深い脂溶性を下げる構造変換をご存知でしたら、コメント欄などでご教授ください。
[関連] logD (logP) は 1~3 を推奨 (気ままに創薬化学)
脂溶性を下げる構造変換まとめ
気ままに創薬化学 2012年06月30日
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オキサジアゾールは 1,3,4 が 1,2,4 よりも低脂溶性
組成式が同じ異性体でも、ヘテロ原子や官能基の配置によって脂溶性が大きく変化することがあります。
例えば AstraZeneca の 2012 年の JMC [論文1] のオキサジアゾールの事例。下図のように、1,3,4-オキサジアゾールと 1,2,4-オキサジアゾール誘導体のペアを比較したところ、総じて 1,3,4 の方が脂溶性が低く、代謝安定性が高く、hERG 阻害が弱く、溶解性が優れているという結果でした。
脂溶性の違いの原因として、1,3,4 の方が双極子モーメントが大きく、2 つの窒素原子の水素結合受容能が高いという計算結果が示されています。
予想以上に低脂溶性 2H-quinolizin-2-one で紹介したピリドンの異性体の脂溶性の違いも、おそらく双極子モーメントや水素結合受容能の影響によるものではないかと個人的には思っています (下図 logP は Exploring Qsar より、clogP は ChemDraw より)。
[論文1] "Oxadiazoles in Medicinal Chemistry" J. Med. Chem. 2012, 55, 1817.
例えば AstraZeneca の 2012 年の JMC [論文1] のオキサジアゾールの事例。下図のように、1,3,4-オキサジアゾールと 1,2,4-オキサジアゾール誘導体のペアを比較したところ、総じて 1,3,4 の方が脂溶性が低く、代謝安定性が高く、hERG 阻害が弱く、溶解性が優れているという結果でした。
脂溶性の違いの原因として、1,3,4 の方が双極子モーメントが大きく、2 つの窒素原子の水素結合受容能が高いという計算結果が示されています。
予想以上に低脂溶性 2H-quinolizin-2-one で紹介したピリドンの異性体の脂溶性の違いも、おそらく双極子モーメントや水素結合受容能の影響によるものではないかと個人的には思っています (下図 logP は Exploring Qsar より、clogP は ChemDraw より)。
[論文1] "Oxadiazoles in Medicinal Chemistry" J. Med. Chem. 2012, 55, 1817.
気ままに創薬化学 2012年06月28日
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増炭して脂溶性が下がるケース (2)
増炭して脂溶性が下がるケース (1) では、2 つ環化するように増炭する場合、増炭して脂溶性が下がることもあることを紹介しました。
今回はもうひとつのケースを取り上げるのですが、鍵となるのは 環化させるだけで脂溶性は下がる の後半で書いた 「分子内水素結合によって極性官能基が相殺されて脂溶性が向上する」 という言葉です。逆に言えば、分子内水素結合を切れば、増炭しても脂溶性が下がることもあるのです。
2010 年の JMC [論文1] によると、下図のように分子内水素結合を切るような形で増炭 (N-メチル化) すると、実測 logD が低下するそうです。
脂溶性以外の変化が大きすぎるので脂溶性を下げる方法としては実用的ではないと思いますが、分子内水素結合によって極性官能基が相殺されて脂溶性が増加するということは頭の片隅に入れておいてもいいと思います (ちなみに clogP では分子内水素結合の効果はうまく評価できていないそうです。論文では他にもコンホメーションや溶解性なども含めて深く議論されています)。
より実践的な分子内水素結合の利用例は 分子内水素結合による中枢移行性の向上、オルト位フッ素でアミドの向きを制御する などでしょうか。
[論文1] "Intramolecular Hydrogen Bonding in Medicinal Chemistry" J. Med. Chem. 2010, 53, 2601.
今回はもうひとつのケースを取り上げるのですが、鍵となるのは 環化させるだけで脂溶性は下がる の後半で書いた 「分子内水素結合によって極性官能基が相殺されて脂溶性が向上する」 という言葉です。逆に言えば、分子内水素結合を切れば、増炭しても脂溶性が下がることもあるのです。
2010 年の JMC [論文1] によると、下図のように分子内水素結合を切るような形で増炭 (N-メチル化) すると、実測 logD が低下するそうです。
脂溶性以外の変化が大きすぎるので脂溶性を下げる方法としては実用的ではないと思いますが、分子内水素結合によって極性官能基が相殺されて脂溶性が増加するということは頭の片隅に入れておいてもいいと思います (ちなみに clogP では分子内水素結合の効果はうまく評価できていないそうです。論文では他にもコンホメーションや溶解性なども含めて深く議論されています)。
より実践的な分子内水素結合の利用例は 分子内水素結合による中枢移行性の向上、オルト位フッ素でアミドの向きを制御する などでしょうか。
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気ままに創薬化学 2012年06月17日
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気ままに創薬化学 2012年06月05日
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