HTS hit の優先順位付けの方法は、企業・プロジェクト・担当者などによって異なるかもしれませんが、Abbott でルーチンに使われているというツールが 2012 年 BMC に報告されました [論文]。
Abbott の判断基準は、Ro4 や Ro5 に加えて、芳香環は3つまで! sp3炭素の割合を増やせ! の NAR や Fsp3 を取り入れたものになっています。ここでの Ro4、Ro5、NAR、Fsp3 の内容は以下の通り。
Ro4 (ClogP ≦4, MW ≦400, HBD ≦5, HBA ≦10, tPSA <140)
Ro5 (ClogP ≦5, MW ≦500, HBD ≦5, HBA ≦10, tPSA <140)
NAR (芳香環の数)
Fsp3 (sp3炭素の割合)
上記の指標を使って、HTS hit の優先順位付けを以下のように行っているそうです。
1 位 ・・・ Ro4 = Pass, NAR <4, Fsp3 >0.5
2 位 ・・・ Ro4 = Pass, NAR <4
3 位 ・・・ Ro4 = Pass
4 位 ・・・ Ro5 = Pass, NAR <4, Fsp3 >0.5
5 位 ・・・ Ro5 = Pass, NAR <4
6 位 ・・・ Ro5 = Pass
7 位 ・・・ Ro5 = Fail
論文では、Ro4、Ro5、NAR、Fsp3 が上記の基準を満たすものが溶解性、膜透過性、代謝安定性に優れている傾向があること、優先順位が高いものほど溶解性、膜透過性、代謝安定性に優れている傾向があることが示されています。Abbott ではこの優先順位付けの方法を、HTS hit の優先順位付けだけでなく hit to lead やそれ以降の最適化でも考慮しているそうです。
化合物の顔、主活性の強さ、選択性、周辺化合物情報、各種実測値など他にも考慮する点はあると思いますが、NAR や Fsp3 を組み込んでいる点は興味深いですね。
[論文] "Abbott Physicochemical Tiering (APT)−A unified approach to HTS triage" Bioorg. Med. Chem. 2012, 20, 4564.
Abbott の HTS hit の優先順位付け
気ままに創薬化学 2012年07月29日
| Comment(2)
| ADMET・物性・特許
logD (logP) は 1~3 を推奨
先日、脂溶性を下げる構造変換まとめ を書きましたが、どの程度の脂溶性に保つのがよいのでしょうか? 2010 年の AstraZeneca の "Lipophilicity in drug discovery" [論文] によると、logD (logP) は 1~3 程度を推奨しているそうです。以下に、その根拠として紹介されている論文の内容の一部をご紹介します。
(1) 溶解度
Yalkowsky の経験則 log Solaq=0.5-logP-0.01(MP-25) があり (MP は融点)、典型的な薬物分子の融点を 150℃ とすると 100μM 以上の溶解度には、logP<3.25 が必要。Clark によると、logP>3 では 1% の化合物が可溶 (>250μg/mL) に対して logP<3 では 50% の化合物が可溶。
(2) 膜透過性
Egan によると化合物が良好な吸収を示すには -1<logP<5.9 で PSA<132Å^2 が必要。AstraZeneca によると分子量に依存し、50% 以上の化合物で Papp>100nm/s を達成するには、分子量 350-400 では logD>1.7、400-450 では logD>3.1、450-500 では logD>3.4、500 以上では logD>4.5。
(3) クリアランス・代謝
Pfizer の 47018 化合物を検証した結果、logD と代謝安定性に相関があり、logD<3 が望ましい。一方で logD<0-1 の化合物になると腎クリアランスの影響が跳ね上がる。
(4) バイオアベイラビリティ(BA)
高い BA には、高い溶解度・高い膜透過性・低いクリアランスが必要で、 0<logP<3、1<logD<3 が望ましい。Topliss によるとヒト BA 80% 以上の化合物の 99% が -2<logD<3。
(5) 分布
logP 2-3 でラットの脳への透過性がプラトーに達する傾向があることと、血しょう非結合性の薬物暴露を最大化する目的から、中枢薬でも logD 1-3 が最適。
(6) 一般毒性
Promiscuity (いろんなタンパク質にべたべたくっつく性質) が logP>3 あるいは logP>2 で劇的に増加するという報告がある。Pfizer の in vivo 毒性試験で、「logP<3 かつ PSA>75Å^2」 では non-toxic/toxic=2.5、「logP>3 かつ PSA<75Å^2」 では toxic/non-toxic=2.5。
(7) hERG
中性、塩基性化合物では logD が上昇すると hERG 阻害が強くなる傾向。中性化合物では logD<3.3 で、塩基性化合物では logD<1.4 で、70% 以上の化合物が hERG IC50>10μM となる。logD 低減は hERG リスクを最小化するための最もシンプルで確立された手法。
(8) ホスホリピドーシス
Ploemen によると (logP)^2+(pKa)^2>90 でリスクが高まり、塩基性化合物で pKa が 9 とすると、logP<3 が望ましい。Tomizawa によると、電荷が 1 の場合には logP>2.75 でリスクが高まる。
(9) CYP 阻害
logP<3 群は logP>3 群に対して CYP 阻害 (1A2,2C9,2C19,2D6,3A4) が劇的に低く、平均 IC50>10μM。
(10) ターゲット活性
ターゲットクラス毎に脂溶性の分布があるが、いずれのクラスにも LogD<3 の化合物は存在する。また、脂溶性の相互作用はエントロピー的でプロミスカスになりやすく、ベストインクラスにはエンタルピー的な相互作用が優れている。
(11) 総合的プロファイル
Gleeson は logP<4、MW<400 が ADMET パラメータ全般に対して成功する確率をぐんと上げると報告している。また、AstraZeneca 化合物で膜透過性>100nm/s、溶解性>100μM、hERG IC50>10μM、を満たす化合物の 80% は 1<logD<3.1 におさまっている。
上記などのことから、logD (logP) は 1~3 程度が推奨されています。また、これらの関係を一覧にした論文の図が東京大学金井研究室のセミナー資料 Application of Bioisosteres in Drug Design (pdf, 2.5MB) の 6 ページ目に掲載されていますので、論文が見れない方はそちらもご覧ください。
[論文] "Lipophilicity in drug discovery" Expert Opin. Drug Discov. 2010, 5, 235.
[関連] ドラッグデザインの羅針盤は脂溶性 (メドケム日記)
(1) 溶解度
Yalkowsky の経験則 log Solaq=0.5-logP-0.01(MP-25) があり (MP は融点)、典型的な薬物分子の融点を 150℃ とすると 100μM 以上の溶解度には、logP<3.25 が必要。Clark によると、logP>3 では 1% の化合物が可溶 (>250μg/mL) に対して logP<3 では 50% の化合物が可溶。
(2) 膜透過性
Egan によると化合物が良好な吸収を示すには -1<logP<5.9 で PSA<132Å^2 が必要。AstraZeneca によると分子量に依存し、50% 以上の化合物で Papp>100nm/s を達成するには、分子量 350-400 では logD>1.7、400-450 では logD>3.1、450-500 では logD>3.4、500 以上では logD>4.5。
(3) クリアランス・代謝
Pfizer の 47018 化合物を検証した結果、logD と代謝安定性に相関があり、logD<3 が望ましい。一方で logD<0-1 の化合物になると腎クリアランスの影響が跳ね上がる。
(4) バイオアベイラビリティ(BA)
高い BA には、高い溶解度・高い膜透過性・低いクリアランスが必要で、 0<logP<3、1<logD<3 が望ましい。Topliss によるとヒト BA 80% 以上の化合物の 99% が -2<logD<3。
(5) 分布
logP 2-3 でラットの脳への透過性がプラトーに達する傾向があることと、血しょう非結合性の薬物暴露を最大化する目的から、中枢薬でも logD 1-3 が最適。
(6) 一般毒性
Promiscuity (いろんなタンパク質にべたべたくっつく性質) が logP>3 あるいは logP>2 で劇的に増加するという報告がある。Pfizer の in vivo 毒性試験で、「logP<3 かつ PSA>75Å^2」 では non-toxic/toxic=2.5、「logP>3 かつ PSA<75Å^2」 では toxic/non-toxic=2.5。
(7) hERG
中性、塩基性化合物では logD が上昇すると hERG 阻害が強くなる傾向。中性化合物では logD<3.3 で、塩基性化合物では logD<1.4 で、70% 以上の化合物が hERG IC50>10μM となる。logD 低減は hERG リスクを最小化するための最もシンプルで確立された手法。
(8) ホスホリピドーシス
Ploemen によると (logP)^2+(pKa)^2>90 でリスクが高まり、塩基性化合物で pKa が 9 とすると、logP<3 が望ましい。Tomizawa によると、電荷が 1 の場合には logP>2.75 でリスクが高まる。
(9) CYP 阻害
logP<3 群は logP>3 群に対して CYP 阻害 (1A2,2C9,2C19,2D6,3A4) が劇的に低く、平均 IC50>10μM。
(10) ターゲット活性
ターゲットクラス毎に脂溶性の分布があるが、いずれのクラスにも LogD<3 の化合物は存在する。また、脂溶性の相互作用はエントロピー的でプロミスカスになりやすく、ベストインクラスにはエンタルピー的な相互作用が優れている。
(11) 総合的プロファイル
Gleeson は logP<4、MW<400 が ADMET パラメータ全般に対して成功する確率をぐんと上げると報告している。また、AstraZeneca 化合物で膜透過性>100nm/s、溶解性>100μM、hERG IC50>10μM、を満たす化合物の 80% は 1<logD<3.1 におさまっている。
上記などのことから、logD (logP) は 1~3 程度が推奨されています。また、これらの関係を一覧にした論文の図が東京大学金井研究室のセミナー資料 Application of Bioisosteres in Drug Design (pdf, 2.5MB) の 6 ページ目に掲載されていますので、論文が見れない方はそちらもご覧ください。
[論文] "Lipophilicity in drug discovery" Expert Opin. Drug Discov. 2010, 5, 235.
[関連] ドラッグデザインの羅針盤は脂溶性 (メドケム日記)
気ままに創薬化学 2012年07月17日
| Comment(0)
| ADMET・物性・特許
2012年6月発刊の創薬関連書籍
◆ 和書
・ 病名適応医薬品集〈2012〉―標準病名から承認薬がわかる本
・ ここまでわかった 乾癬の病態と治療
・ FDAの知識 ジェネリック薬―不安と期待
◆ 洋書
・ Drug Design: Methodology, Concepts, and Mode-of-action
・ Case Studies in Modern Drug Discovery and Development
・ Fluorine in Pharmaceutical and Medicinal Chemistry: From Biophysical Aspects to Clinical Applications
・ Progress in Medicinal Chemistry, Volume 51
・ Metabolism of Drugs and Other Xenobiotics
・ Protein-protein Interaction
・ Nanostructured Biomaterials for Overcoming Biological Barriers
・ Process Validation in Manufacturing of Biopharmaceuticals, Third Edition
・ Essential CNS Drug Development
・ Translational Neuroscience: Applications in Psychiatry, Neurology, and Neurodevelopmental Disorders
・ Pharmaceutical Lifecycle Management: Making the Most of Each and Every Brand
・ Discoveries in Pharmacological Sciences
・ Human Pharmaceuticals in the Environment: Current and Future Perspectives
・ Non-clinical Statistics in Drug Discovery
・ Clinical Trials in Oncology, Third Edition
・ Telomerases: Chemistry, Biology and Clinical Applications
・ Treatment of Dry Skin Syndrome: The Art and Science of Moisturizers
・ Midkine: from Embryogenesis to Pathogenesis and Therapy
・ Biomaterials and Stem Cells in Regenerative Medicine
気ままに創薬化学 2012年07月02日
| Comment(0)
| 月別創薬関連書籍