フェノール類のフッ素化試薬 PhenoFluor 発売

2011 年に Tobias Ritter 先生らが発表 [論文] したフェノール類の脱酸素的フッ素化試薬 PhenoFluor が Aldrich から最近発売されました。250 mg で 40,000 円と高めの価格ですが、 官能基許容性も高いですし、創薬化学に使えるかもしれません。


Aldrich と言えば、気ままに有機化学 で紹介した 25mL Sure/Seal Reagents も経時劣化が抑えれていいかも。価格も 100mL と変わらないです。

[論文] "Deoxyfluorination of Phenols" J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 11482.
[関連] 新しい脱酸素的フッ素化試薬 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2012年11月29日 | Comment(0) | 合成化学

RCH2-CF2-CH2R の結合角は約 118°

フッ素化合物の研究で有名な David O'Hagan 先生の論文 [2] によると、RCH2-CF2-CH2R を有する化合物の結晶構造を調査したところ、結合角は約 118° (ほとんどが 116~120°)だったそうです。RCH2-CH2-CH2R の結合角 (約 110°、David O'Hagan 先生の論文 [1]) に比べてかなり大きくなっており、sp3 よりも sp2 に近い結合角ですね (下図)。

なお、本ブログの シクロプロピル基の 3 つの効果 で紹介した論文 [3] によると、シクロプロパン環のジェミナルの置換基の結合角は約 116° だそうです。また、書籍 [4] によると、シクロプロパンのジェミナル水素の結合角は 115°、プロパンでは 106° とのことで、シクロプロパンの結合角がかなり広くなっています。


このことが創薬化学にどのように影響するでしょうか?ひとつはメチレン基をジフルロメチレン基やシクロプロピレン基に変えたときに、結合角の変化の分だけ両端の位置関係が少し変わることです。そしてもうひとつは、結合角の変化によって周辺のコンホメーションが大きく変わるかもしれないことです。

論文 [1] によると、炭化水素鎖では gauche のコンホメーションを取ると 1,4 の水素がぶつかる (ca. 1.8 Å) ため、伸びたジグザグ型のコンホメーションが有利になるのに対し、CF2 をもつ炭化水素鎖では結合角が広くなるため 1,4 の水素の距離が大きくなり、 CF2 をもたない場合に比べて gauche のコンホメーションが安定化されるそうです (下図の ? は論文の図をそのまま転記)。

ちなみに、結合距離は C-C (1.5 Å)、C-O (1.4 Å)、C-S (1.8 Å) で、エーテル鎖は gauche 配座を取りにくいがチオエーテル鎖では gauche 配座が比較的安定化されるようです (下図右)。論文には書かれていませんが、上で述べた結合角を考えると、シクロプロパン環を導入したときにも同様に gauche 配座が比較的安定化されるかもしれません。


CH2 を CF2 に変換する、あるいは O を S に変換する場合には、上のようなコンホメーション変化の可能性も考慮しながら分子デザインや構造活性相関の解釈に当たった方がよいかもしれませんね (可能なら結晶構造や計算化学なども確認しながら)。

[補足] 論文 [1] から RCH2-CH2-CH2R の結合角は約 110° と紹介しましたが、Chem. Rev. 2005, 105, 1735. の下図を参照すると約 112° かもしれません。


[1] "Some influences of fluorine in bioorganic chemistry" Chem. Commun. 1997, 645.
[2] "Alicyclic Ring Structure: Conformational Influence of the CF2 Group in Cyclododecanes" Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 10581.
[3] "Cyclopropylamino Acid Amide as a Pharmacophoric Replacement for 2,3-Diaminopyridine. Application to the Design of Novel Bradykinin B1 Receptor Antagonists" J. Med. Chem. 2006, 49, 1231.
[4] Modern Physical Organic Chemistry
[5] ジフルオロメチレン基の影響 (コンホメーションとプロパティ) に関して 2012 年の Pure Appl. Chem. にまとめられています (David O'Hagan 先生)。

気ままに創薬化学 2012年11月26日 | Comment(1) | 相互作用・配座・等価体

PhOCH3 は平面型、PhOCF3 は直交型の配座

以前紹介した Klaus Müller 先生の講義資料 をご覧になった方はもうご存知だと思いますが、アニソールやチオアニソールのメチル基をトリフルオロメチル基に変えると大きくコンホメーションが変わるようです。

オルト位に置換基をもたない PhOCH3 構造をもつ化合物の結晶構造を調べるとほとんどが平面型 (Ph と OCH3 が同一平面)、PhOCHF3 構造ではほとんどが直交型 (Ph と OCF3 が直交) の配座だったようです。下図は上記の講義資料からの引用ですが、横軸が C–C–O–C の二面角、縦軸がその角度の化合物の数を表しています。


この配座の変化の原因として講義資料では、酸素からベンゼン環への共役が弱まることと、トリフルオロメチル基がメチル基よりも嵩高いことが挙げられています。


このあたりの話は Klaus Müller 先生の講義資料 の [追記] や フッ素を入れて脂溶性を下げる で紹介した論文にも書かれていたりします。ちなみに PhOCHF2 や PhOCH2F については結晶構造の数が少なかったり顕著な配向性がなかったりしてあまりはっきりしたことは言えないような感じを受けました (詳しくは論文を)。

で、Klaus Müller 先生の講義資料 の [追記] の論文 (2007 年) では結晶構造の数が少なかったけど、講義資料 (2012 年) ではデータがそろってきたものに、PhSCH3 と PhSCF3 の配座があります。結論は酸素のときと同様に、PhSCH3 は平面型、PhSCF3 は直交型に近い配座を優先するようです。


CH3 を CF3 にすることでここまで劇的にコンホメーションが変化するなんて面白いですね。その分、分子デザインや構造活性相関の解釈には注意が必要そうです。

気ままに創薬化学 2012年11月15日 | Comment(0) | 相互作用・配座・等価体