t-ブチル基の代謝安定等価体としてトリフルオロメチルシクロプロピル基

t-ブチル基をもつ化合物によくある問題点として代謝されやすいことがありますが、最近、t-ブチル (t-Bu) 基の代謝安定な等価体としてトルフルオロメチルシクロプロピル (Cp-CF3) 基が Novartis から報告されました。[文献]

下図 (1) のように t-ブチル (t-Bu) 基をトルフルオロメチルシクロプロピル (Cp-CF3) 基に変換することで代謝が大きく改善 (ラットおよびヒト肝ミクロソーム半減期が延長)。デザインコンセプトは 「sp3 の C-H をなくす」 こと。(1) の他の化合物のように sp3 の C-H をもつ化合物では代謝が改善しなかったようです。また、受容体 (主活性) が許容するならば、(2) のように極性基を導入することでも代謝を改善することができます。ただし、オキセタンの創薬化学 で紹介した gem-ジメチル基の等価体としてのオキセタンはここでは代謝を改善しなかったとのこと。


論文では、上の化合物だけではなく、複数の化合物で t-Bu 基 → Cp-CF3 基で代謝改善の例が示されています。また、in vivo (ラット) でもクリアランスが小さくなり、半減期が延長していることも確認されています。さらに、CYP3A4/5 の阻害や time-dependent inhibition はほとんどないこともチェック済み。Cp-CF3 基をもつ化合物の合成法 (原料は ArCOCF3 から) も記述されています。

ちなみに、生物学的等価体の例や文献を検索できる SwissBioisostere で紹介したサイトで t-Bu 基 → Cp-CF3 基を調べると (検索結果はこちら) 数十件ヒットしますが、活性はあまり変わらないことが多いようで、等価体として機能しそうですね。 (過去の例では代謝速度は報告されていないそうです)

以上、t-Bu 基 → Cp-CF3 基で代謝改善の例でした。もちろんすべての場合で改善するとは限らないと思いますが、t-Bu を含む化合物で代謝が問題の場合、試してみる価値はありそうです。

[文献] "Metabolically Stable tert-Butyl Replacement" ACS Med. Chem. Lett. Article ASAP
[関連] Small-Ring Substitute Helps Drugs Stick Around (C&EN)
[関連] 酸に安定な Boc 等価体 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2013年05月21日 | Comment(2) | ADMET・物性・特許