薬の構造式から元素の種類と結合の種類を無視したものを 「グラフ」 と定義し、「グラフ」 から側鎖を除いたもの、すなわち環構造とそれをつなぐリンカーを抽出したものを 「フレームワーク」 と定義します。

そして既存薬の構造を 「フレームワーク」 で表すと、CMC データベースの 5120 化合物のうち、約半数が下図のたった 32 フレームワークに納まるそうです。(ちなみにフレームワークの総数は 1179 個、その内 783 個は単一化合物にのみ存在)

さて、この結果を見てあなたはどう思いますか?
(1) ドラッグライクな構造は上の 32 個ということだ。合成展開やライブラリーも上のような化合物にしよう。
(2) 上の 32 個以外が特許性・新規性の高い化合物だ。合成展開やライブラリーも上のような化合物以外にしよう。
私にはどちらがより効率的な創薬につながるのかわかりません (もっと違う観点からケミカルスペースを考えるべきなのかもしれません)。ただ、個人的な考えでは、この偏りは 「売っているものや合成例があるものを優先しやすい」 という合成展開やライブラリーの労力を小さくするための意識・無意識的な作用の影響を多分に受けていそうな気がします。なので、個人的には (2) で行きたいと思っています。
この論文は 1996 年の発表ですが、ここ 10〜20 年で合成化学の方法論も大きく進展しましたし、新しいフレームワークの化合物も増えてきているかもしれません。実際、近年の特許はスピロ構造、多縮環構造、≧七員環、≦四員環、四級炭素など、上のフレームワークを外れるものが多くなってきているように思います。ちなみに、先日紹介した オキセタンの創薬化学 は四員環・四級炭素・スピロ構造ですので、フレームワークという観点からも面白い構造ですね。・・・さて、更に 10〜20 年後はどんな骨格を作るようになっているのでしょうか?
[論文] "The Properties of Known Drugs. 1. Molecular Frameworks" J. Med. Chem. 1996, 39, 2887.