『小さな命が呼ぶとき』 の動画 [英語] のエンディングで上のような字幕が出ていたことに気づかれたでしょうか?そうです、チラッと 以前 書いたのですが、映画の主人公のジョン・クラウリーは現在もポンぺ病の次世代治療薬の開発に取り組んでいるのです。今回は映画には出てこないその後の話を紹介しましょう。
さて、映画 『小さな命が呼ぶとき』 は、治療薬のない難病のポンペ病の子供を持つ父親ジョン・クラウリーが治療薬を開発する会社を設立して奔走する様が描かれた作品です。そもそもポンぺ病は、遺伝的要因により、グリコーゲンを分解する酵素である酸性 α-グルコシダーゼ活性が不足あるいは欠損することで、ライソゾーム中にグリコーゲンが蓄積し、筋肉や呼吸の機能低下を招く希少疾病です。ながく治療薬がありませんでしたが、ジョンらの努力により酵素補充療法の マイオザイム がジェンザイム社から発売されるに至りました (米国・EU では 2006年 承認、日本では 2007 年承認)。酵素活性が足りないならば酵素を補充してやればいいというわけです。このマイオザイム発売までの経緯を (ある程度) 実話に基づいて映画化したのが 『小さな命が呼ぶとき』 なのです。
これで 「めでたし、めでたし」 というわけではありません。酵素補充療法の開発は間違いなくひとつのブレークスルーですが、いくつか問題点も残しています。それは、治療コストが高いこと、投与方法が点滴静注であること、中枢移行性がないこと、などです。例えばマイオザイムは 50mg のバイアル 1 本 9 万 3994 円、体重 1kg 当たり 20mg を隔週投与する必要があります。公費助成があるものの薬剤費は膨大で、また隔週で通院して 1 回 4 時間程度の点滴静注を生涯継続しなければならないという点も負担になる可能性があります。
ポンぺ病を低分子化合物で治療できないか?ジョン・クラウリーは現在、Amicus 社の CEO として低分子シャペロンの開発に取り組んでいます。低分子シャペロン (あるいは Pharmacological Chaperone とも呼ばれる) というのはタンパク質の立体構造を安定化する低分子化合物のことで、遺伝的要因によって減弱した酵素の活性を回復させることによる治療を目指すものです。Amicus 社は低分子シャペロンに特化した会社で、他にも同じ分野に特化した会社として 2010 年に Pfizer 社が買収した FoldRX などがあります。
Amicus 社は現在 3 つの臨床試験中の化合物があり、そのうちの 1 つ AT2220 がポンぺ病を適応症として開発されています。ポンぺ病は先に述べたように、遺伝的要因によりグリコーゲンを分解する酵素 (酸性 α-グルコシダーゼ) の活性が減弱することによる疾病ですが、AT2220 はこの酵素の低分子シャペロンです。
ポンペ病の子供をもつジョン・クラウリーはポンペ病の治療法としてすでに酵素補充療法を世に送り出し、さらに現在、次世代治療薬として低分子シャペロンの開発に携わっています。彼のポンペ病治療薬の開発にかける想いは計り知れません。そう言えば 『小さな命が呼ぶとき』 を見た創薬化学者の M 先輩はこんなことをつぶやいてました、「僕たちに最も必要なのは本当は情熱かもしれないね」。
まさかこの世界を題材に映画になるなんて珍しいと思い観た映画でしたが、その後どうなったか凄く興味がありました。
とても解りやすい説明有り難うございました。
現実社会では理想と現実との狭間で難しい業界で、地味地な分野だし・・・と私も門前の小僧でよくよく得心してます。
本当に情熱が人一倍いると思います。
ただこの手の研究開発している方々は、研究内容を説明して頂く時とても眼を輝かせて話して下さいます。そんな時私はとても元気になります。
応援しています頑張って下さい。