今年の 7 月に Wiley の最新書籍を無料でもらってレビューを書こう! という、レビュー (書評) を書いていただくことを条件に wiley 社の最新書籍を無料でもらえるというキャンペーンを開催しました。今回、『気ままに創薬化学』 部門の当選者の大軽貴典さんに ADMET for Medicinal Chemists: A Practical Guide のレビューをご執筆いただきましたので、ご紹介させていただきます。
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ADMET for Medicinal Chemists A Practical Guide
運良くこの本を手にすることができました。まずは感謝いたします。
私は、コンピュータを使ってドラッグデザインをする研究員として製薬会社で日々研究しています。メディシナルケミストの方と同じ立場ではありませんが、生物系研究員ではないという点で共通しています。ですから、私の受けた印象と皆さんがこの本を読んだ時の印象は似ているのではないかと思います。以下、レビューです。
この本はメディシナルケミスト向けにADMETの問題を解決する上で必要な知識を紹介しています。しかしながら、ADMEと比べるとT(毒性)についてはページを割いているのに一般的なところしか触れていない印象を受けました。ADMEと比べると毒性部分は所見というコメントが多く、説明することが少ないからかも知れません。また、構造とADMETを絡めて説明する記載が発がん性物質に頻出する部分構造程度と、実際の創薬プロジェクトにいくつも関わってきたメディシナルケミストの方にとっては満足できない内容ではないでしょうか?製薬会社に入って創薬でよく用いる合成法を勉強中である若いメディシナルケミストにとっては、ちょうどよい教科書だと思います。以降、パートごとにレビューします。
第1章はADMEについての概論です。最近ADMEに関する英語論文を読んでおらず専門用語を辞書を引き引き確認しました。こんなに引いたのは久しぶりでした。ここでちゃんと調べておかないと他の章を読むときに苦しむと思ったからなのですが、結局他の章を読むときにはそれほど出てきませんでした。この章を読むのに時間がかかりましたが、内容はADMEに関する日本語の本を持っていれば十分に書いてある内容だけでしたので、すでに読んだことのある人はわざわざ読まずにとばして結構だと思いました。
第2章は、in silico ADME/Tox PREDICTIONS。これは私の専門分野でしたのでじっくり読みました。モデル式は数多くの論文で報告されておりここでもいろいろ紹介しています。一部でモデル式を載せていることがありますがこれがベストでない(少なくとも自分の経験でそう思っています)ので、そこは割り引いて読む必要があります。メディシナルケミストにとってこの章で重要なことは、物性パラメータである程度相関が認められると再認識することではないかと思います。私のような立場の方はちゃんと手元のデータセットに対して構造を見てどれくらい構造の多様性があるのかを確認した上で基本的な物性パラメータである分子量やPSA, logP, logD, HBA, HBDなどとADMET指標の関係を散布図で見ていく。もしモデル式を作るのなら、用いる物性パラメータ間の相関も考慮しなるだけデータセット内で振れている物性パラメータを利用するように心がけることが必要です。が、こうしたことについても触れられていません。
私がこの章で驚いたのは、物性パラメータ推算ソフトをきちんとリストアップしているところです。例えば、logPならHINT ( http://www.edusoft-lc.com )、OsiriusP ( http://www.actelion.com )、pKaならCS pKa ( http://www.compudrug.com )、VCCLAB ( http://vcclab.org )です。知らない製品もありますし、一部は無償で使えるので研究室で推算ソフトが使えない方は調べてみてはどうかと思いました。
この章の最後に無償で入手できる化合物データベースも一覧になっています。モデル構築のためには多くの化合物情報があると有用です。ここにも知らないデータベースがありました。ここだけでも参考になります。無償データベース一覧のみ抜粋いたします(Table参照)。このあたりはそれぞれの会社の分子設計グループ・インフォマティクスグループにはおいしい情報です。
in silico創薬のアプローチで見ると、この2章と11章を合わせて読む必要があります。残念ながらMMPA (Matched Molecular Pair Analysis)という最近注目されている解析手法が紹介されていませんでした。論文と違って書籍なので最新情報をまとめることはやはり難しいようですね。
この本の後半に毒性の章があります。毒性に関する部分だけでも4章分使っています。この毒性のパートまでまだきちんと目を通せていませんが感想を述べたいと思います。
ADMEと合わせて毒性に関しても記載されているのは大変良いことだと思いましたが、すべての毒性について記述されているわけではありません。光毒性や反応性代謝物といった最近の医薬品に求められている安全性については記述がありません。肝毒性、遺伝毒性、hERG阻害といった代表的な毒性について丁寧に触れているという印象です。
ADMETに関して情報を知りたい方はこの本を読まれた後、MMPA (Matched Molecular Pair Analysis)やメドケム向けの毒性に関する総説も読まれると良いと思います。
MMPA:
Leach, A.G. et al., Matched Molecular Pairs as a Guide in the Optimization of Pharmaceutical Properties; a Study of Aqueous Solubility, Plasma Protein Binding and Oral Exposure, J. Med. Chem., 2006, 49, 6672-6682.
Gleeson, P. et al., ADMET rules of thumb II: A comparison of the effects of common substituents on a range of ADMET parameters, Bio. Med. Chem., 2009, 17, 5906-5919.
メドケム向けの毒性に関する総説:
Smith, G.F. Designing Drugs to Avoid Toxicity, Progress in Med. Chem., Vol.50, pp.1-47.
Stepan, A.F. et al., Structural Alert/Reactive Metabolite Concept as Applied in Medicinal Chemistry to Mitigate the Risk of Idiosyncratic Drug Toxicity: A Perspective Based on the Critical Examination of Trends in the Top 200 Drugs Marketed in the United States, Chem. Res. Toxicol., 2011, ASAP.
Table. Free Chemistry Databases
大軽貴典(@garuby)