まずは 2011 年 JMC、Pfizer の Hsp90 inhibitor [論文1]。ウレアの置換基を市販のアミンを検討してシクロブチル基を見出した後、代謝安定性を高めた等価体としてビシクロペンチル基へと展開しています。シクロブチル基の 1 位と 3 位を 1 炭素でつないだ構造ですね。
私が興味をもった理由は、構造がユニークであるのに加えて、2011 年 OL にわざわざ合成法が報告されていたためです [論文2]。ビシクロペンチルアミンは市販ではないため、自社で大量合成法を開発。合成法の詳細は論文に譲りますが、通算収率で従来法が 10 %のものを 62 %まで改善し、コストも 1/50 に削減できたようです。さらに論文中には "To support our ongoing drug discovery programs" との記載もあり、合成展開にこのアミンを積極的に取り入れているように思われます。また、更なる新合成法も開発中らしいこと、アミンだけでなくアルコールやシアンやクロライドの合成法なども検討中らしいことから、Pfizer はビシクロペンタン骨格に力を入れているような印象を受けました。
さて、ここで、これまでこのブログを読んでくださっていた方は、ある三段論法に気がついたかもしれません。というのは、シクロブチル環をオレフィンやベンゼン環の代わりに では 『ベンゼン → シクロブタン』 の展開 (これも Pfizer です) を、そしてこの記事では 『シクロブタン → ビシクロペンタン』 の展開を紹介しました。ならば、三段論法によって 『ベンゼン → ビシクロペンタン』 の展開の可能性が考えられます。笑
そして、最近それが報告されました、2012 年 JMC より、Pfizer の γ-Secretase Inhibitor [論文3]。下図のようにリンカー部のベンゼン環をビシクロペンタン環に置き換えることで、膜透過性や溶解性が向上し、脂溶性が下がり、マウスの動態も改善したそうです。ただし、長さとしてはベンゼン環に比べて 1 Å ほど短くなるとのこと。
『ベンゼン → シクロブタン』 も、『シクロブチル → ビシクロペンタン』 も、『ベンゼン → ビシクロペンタン』 も、すべての場合で使える展開ではないとは思いますが、ひとつの可能性として面白い展開ではないでしょうか。あと、もし試薬のサプライヤーの方がこのブログを見ておられましたら、ビシクロペンチル基をもったビルディングブロックの販売を検討されてはいかがでしょうか? (→ ベンゼン、ビシクロペンタン、キュバン へ続きます)
[論文1] "Optimization of Potent, Selective, and Orally Bioavailable Pyrrolodinopyrimidine-Containing Inhibitors of Heat Shock Protein 90. Identification of Development Candidate 2-Amino-4-{4-chloro-2-[2-(4-fluoro-1H-pyrazol-1-yl)ethoxy]-6-methylphenyl}-N-(2,2-difluoropropyl)-5,7-dihydro-6H-pyrrolo[3,4-d]pyrimidine-6-carboxamide" J. Med. Chem. 2011, 54, 3368.
[論文2] "Scalable Synthesis of 1-Bicyclo[1.1.1]pentylamine via a Hydrohydrazination Reaction" Org. Lett. 2011, 13, 4746.
[論文3] "Application of the Bicyclo[1.1.1]pentane Motif as a Nonclassical Phenyl Ring Bioisostere in the Design of a Potent and Orally Active γ-Secretase Inhibitor" J. Med. Chem. Article ASAP.