今回はもうひとつのケースを取り上げるのですが、鍵となるのは 環化させるだけで脂溶性は下がる の後半で書いた 「分子内水素結合によって極性官能基が相殺されて脂溶性が向上する」 という言葉です。逆に言えば、分子内水素結合を切れば、増炭しても脂溶性が下がることもあるのです。
2010 年の JMC [論文1] によると、下図のように分子内水素結合を切るような形で増炭 (N-メチル化) すると、実測 logD が低下するそうです。

脂溶性以外の変化が大きすぎるので脂溶性を下げる方法としては実用的ではないと思いますが、分子内水素結合によって極性官能基が相殺されて脂溶性が増加するということは頭の片隅に入れておいてもいいと思います (ちなみに clogP では分子内水素結合の効果はうまく評価できていないそうです。論文では他にもコンホメーションや溶解性なども含めて深く議論されています)。
より実践的な分子内水素結合の利用例は 分子内水素結合による中枢移行性の向上、オルト位フッ素でアミドの向きを制御する などでしょうか。
[論文1] "Intramolecular Hydrogen Bonding in Medicinal Chemistry" J. Med. Chem. 2010, 53, 2601.
勝手に予想していたものとは違いましたが、
もしかして(3)も予定されてますか?
今のところ 「増炭して脂溶性が下がるケース (3)」 は予定してません。もし何かネタがあれば教えてください〜。
clogPはうまく評価できないとのことですが、ACDlogDのようなcLogDは分子内水素結合をちゃんと評価しているのでしょうか。当該pHにおけるイオン化状態だけでなく、分子内水素結合も考慮しているのか気になりました。
ちなみに私は、7員環とか、sp3炭素をもつ6員環のような緩い分子内結合が好きです。
融点を下げて、水溶解度を向上させるというのも脂溶性が下がるケースかなと思いまする。
ACDlogDなどで分子内水素結合がうまく評価できているかは記事中の化合物の脂溶性を計算させて実測値とどの程度一致するかを見ればよいかと思います。(私はACDlogDを使いませんのでぜひやってみてください)
> hira さん
そちらの水溶性の向上は融点を下げる効果(結晶パッキングの低下)によるもので、脂溶性は下がってはいないと私は思っています。Yalkowskyの式 logS=0.5-logP-0.01(MP-25) によると、溶解度SはlogPと融点MPの影響を受けるとされており、融点が下がれば溶解度は上がることになります。