RCH2-CF2-CH2R の結合角は約 118°

フッ素化合物の研究で有名な David O'Hagan 先生の論文 [2] によると、RCH2-CF2-CH2R を有する化合物の結晶構造を調査したところ、結合角は約 118° (ほとんどが 116~120°)だったそうです。RCH2-CH2-CH2R の結合角 (約 110°、David O'Hagan 先生の論文 [1]) に比べてかなり大きくなっており、sp3 よりも sp2 に近い結合角ですね (下図)。

なお、本ブログの シクロプロピル基の 3 つの効果 で紹介した論文 [3] によると、シクロプロパン環のジェミナルの置換基の結合角は約 116° だそうです。また、書籍 [4] によると、シクロプロパンのジェミナル水素の結合角は 115°、プロパンでは 106° とのことで、シクロプロパンの結合角がかなり広くなっています。


このことが創薬化学にどのように影響するでしょうか?ひとつはメチレン基をジフルロメチレン基やシクロプロピレン基に変えたときに、結合角の変化の分だけ両端の位置関係が少し変わることです。そしてもうひとつは、結合角の変化によって周辺のコンホメーションが大きく変わるかもしれないことです。

論文 [1] によると、炭化水素鎖では gauche のコンホメーションを取ると 1,4 の水素がぶつかる (ca. 1.8 Å) ため、伸びたジグザグ型のコンホメーションが有利になるのに対し、CF2 をもつ炭化水素鎖では結合角が広くなるため 1,4 の水素の距離が大きくなり、 CF2 をもたない場合に比べて gauche のコンホメーションが安定化されるそうです (下図の ? は論文の図をそのまま転記)。

ちなみに、結合距離は C-C (1.5 Å)、C-O (1.4 Å)、C-S (1.8 Å) で、エーテル鎖は gauche 配座を取りにくいがチオエーテル鎖では gauche 配座が比較的安定化されるようです (下図右)。論文には書かれていませんが、上で述べた結合角を考えると、シクロプロパン環を導入したときにも同様に gauche 配座が比較的安定化されるかもしれません。


CH2 を CF2 に変換する、あるいは O を S に変換する場合には、上のようなコンホメーション変化の可能性も考慮しながら分子デザインや構造活性相関の解釈に当たった方がよいかもしれませんね (可能なら結晶構造や計算化学なども確認しながら)。

[補足] 論文 [1] から RCH2-CH2-CH2R の結合角は約 110° と紹介しましたが、Chem. Rev. 2005, 105, 1735. の下図を参照すると約 112° かもしれません。


[1] "Some influences of fluorine in bioorganic chemistry" Chem. Commun. 1997, 645.
[2] "Alicyclic Ring Structure: Conformational Influence of the CF2 Group in Cyclododecanes" Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 10581.
[3] "Cyclopropylamino Acid Amide as a Pharmacophoric Replacement for 2,3-Diaminopyridine. Application to the Design of Novel Bradykinin B1 Receptor Antagonists" J. Med. Chem. 2006, 49, 1231.
[4] Modern Physical Organic Chemistry
[5] ジフルオロメチレン基の影響 (コンホメーションとプロパティ) に関して 2012 年の Pure Appl. Chem. にまとめられています (David O'Hagan 先生)。




気ままに創薬化学 2012年11月26日 | Comment(1) | 相互作用・配座・等価体
この記事へのコメント
ケトンをジフルオロメチルに変換する妥当性が結合角からも支持されるんですね。
Posted by chemko at 2013年02月09日 18:02
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