フッ素導入で溶解度が大幅向上

2008 年 JMC より、Bristol-Myers Squibb の CGRP receptor antagonist の報告 [論文]。経鼻での偏頭痛治療を狙ったもので、鼻孔あたり 100 μL 以下の水で投与する必要があるため、化合物には高い溶解性が求められるそうです。

さて、下図の化合物で 3,4-dihydro-2(1H)-quinazolinone の 8 位にフッ素を導入すると溶解度が劇的に向上したそうです。その理由に関する考察は、"It is possible that the fluorine serves to polarize the NH bond of the adjacent urea, rendering it a more potent hydrogen bond donor and thereby enhancing solvation by water." とのことです。


それだけでこんなに変わるのかなぁというのが個人的な感想ですが、溶解度が大幅に改善したのは間違いなさそうなので、類似の化合物で溶解度向上を狙いたい場合はフッ素導入を試してみてはいかがでしょうか。

[論文] "Discovery of (R)-4-(8-Fluoro-2-oxo-1,2-dihydroquinazolin-3(4H)-yl)-N-(3-(7-methyl-1H-indazol-5-yl)-1-oxo-1-(4-(piperidin-1-yl)piperidin-1-yl)propan-2-yl)piperidine-1-carboxamide (BMS-694153): A Potent Antagonist of the Human Calcitonin Gene-Related Peptide Receptor for Migraine with Rapid and Efficient Intranasal Exposure" DOI: 10.1021/jm800546t

気ままに創薬化学 2014年02月13日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許

Fsp3 が増えると promiscuity は減少する

芳香環は3つまで! sp3炭素の割合を増やせ! で紹介した論文の続報で、Fsp3 (=sp3炭素数/全炭素数) が増えると promiscuity は減少するという報告 [論文]。内容を箇条書きでざっくり紹介。

(1) Fsp3 が増えるにしたがって promiscuity は減少する。
(2) キラル中心の数が 0、1、2、>2 と増えるにしたがって promiscuity は減少する。
(3) Fsp3 が増えるにしたがって 5 種の CYP 阻害は減弱する。
(4) Promiscuity や CYP 阻害は clogP の影響が大きいが、Fsp3 やキラル中心の数も同程度の影響力。
(5) 臨床での毒性等を考慮すると、Fsp3 やキラル中心の数も重要な指標。(上市薬の Fsp3 は 0.43)

Abbott の HTS hit の優先順位付け でも基準のひとつに Fsp3 >0.5 が挙げられていますし、Fsp3 やキラル中心の数にもケアした方がいいかもしれませんね。

[論文] "Escape from Flatland 2: complexity and promiscuity" Med. Chem. Commun., 2013, 4, 515.
[雑談] Escape from Flatland の 1 と 2 で筆頭著者は同じ (Frank Lovering 氏) ですが、前者での所属は Wyeth で後者では Pfizer になってますね。

気ままに創薬化学 2013年11月06日 | Comment(2) | ADMET・物性・特許

スルホキシイミンを創薬化学に


スルホキシイミンの創薬化学に関するミニレビューが Bayer の研究者から報告されました [論文1]。スルホン、スルホンアミド、アミジン、アルコール、リン酸などの等価体としてスルホキシイミンが使える可能性があるとのこと。

スルホキシイミンをもつ上市薬はまだないようですが、臨床試験の段階にはいくつかあります。そのうち例えば BAY 100394 (Phase I、CDK inhibitor) のケースでは、元の化合物は下図左のスルホンアミドでしたが、オフターゲットとしてスルホンアミド由来の炭酸脱水酵素阻害がありました。そこでスルホンアミドをスルホキシイミンにすると炭酸脱水酵素阻害が消失、さらに最適化し BAY 100394 に辿り着いたそうです。この成功を受けて Bayer ではスルホキシイミンを様々なプロジェクトで利用しているそうです。


他にも、スルホンをスルホキシイミンに変換することで hERG を低減することに成功した例などが挙げられています。スルホン、スルホンアミド、アミジン、アルコール、リン酸などの等価体としてスルホキシイミン、機会があれば試してみてはいかがでしょうか。

[論文1] "Sulfoximines: A Neglected Opportunity in Medicinal Chemistry" Angew. Chem. Int. Ed., Early View.
[論文2] "Sulfonimidamides as Sulfonamides Bioisosteres: Rational Evaluation through Synthetic, in Vitro, and in Vivo Studies with γ-Secretase Inhibitors" ChemMedChem, 2012, 7, 396.
[関連] スルホンアミド等価体、スルホキシイミン検証 (メドケム日記)

気ままに創薬化学 2013年08月24日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許

ブレット則でイミニウム生成を回避する

2013 年、Genentech の mTOR 阻害剤の報告 [論文]。下図左の化合物の CYP3A4 time-dependent inhibition (TDI) を軽減するために、ピペリジン窒素の両隣の炭素をエチレン架橋したビシクロ化合物をデザイン。ブレット則 (Bredt's rule) でイミニウム生成を回避するという狙いだそうです。結果として CYP3A4 TDI は減弱し、さらに溶解性も改善 (平面性が弱まったため)。


CYP3A4 TDI の原因がイミニウムなのか等の検証はなされていないようですが、ブレット則でイミニウム生成を回避するというアイデアはおもしろいですね。

[論文] "Pyrimidoaminotropanes as Potent, Selective, and Efficacious Small Molecule Kinase Inhibitors of the Mammalian Target of Rapamycin (mTOR)" J. Med. Chem. 2013, 56, 3090.

気ままに創薬化学 2013年06月03日 | Comment(1) | ADMET・物性・特許

t-ブチル基の代謝安定等価体としてトリフルオロメチルシクロプロピル基

t-ブチル基をもつ化合物によくある問題点として代謝されやすいことがありますが、最近、t-ブチル (t-Bu) 基の代謝安定な等価体としてトルフルオロメチルシクロプロピル (Cp-CF3) 基が Novartis から報告されました。[文献]

下図 (1) のように t-ブチル (t-Bu) 基をトルフルオロメチルシクロプロピル (Cp-CF3) 基に変換することで代謝が大きく改善 (ラットおよびヒト肝ミクロソーム半減期が延長)。デザインコンセプトは 「sp3 の C-H をなくす」 こと。(1) の他の化合物のように sp3 の C-H をもつ化合物では代謝が改善しなかったようです。また、受容体 (主活性) が許容するならば、(2) のように極性基を導入することでも代謝を改善することができます。ただし、オキセタンの創薬化学 で紹介した gem-ジメチル基の等価体としてのオキセタンはここでは代謝を改善しなかったとのこと。


論文では、上の化合物だけではなく、複数の化合物で t-Bu 基 → Cp-CF3 基で代謝改善の例が示されています。また、in vivo (ラット) でもクリアランスが小さくなり、半減期が延長していることも確認されています。さらに、CYP3A4/5 の阻害や time-dependent inhibition はほとんどないこともチェック済み。Cp-CF3 基をもつ化合物の合成法 (原料は ArCOCF3 から) も記述されています。

ちなみに、生物学的等価体の例や文献を検索できる SwissBioisostere で紹介したサイトで t-Bu 基 → Cp-CF3 基を調べると (検索結果はこちら) 数十件ヒットしますが、活性はあまり変わらないことが多いようで、等価体として機能しそうですね。 (過去の例では代謝速度は報告されていないそうです)

以上、t-Bu 基 → Cp-CF3 基で代謝改善の例でした。もちろんすべての場合で改善するとは限らないと思いますが、t-Bu を含む化合物で代謝が問題の場合、試してみる価値はありそうです。

[文献] "Metabolically Stable tert-Butyl Replacement" ACS Med. Chem. Lett. Article ASAP
[関連] Small-Ring Substitute Helps Drugs Stick Around (C&EN)
[関連] 酸に安定な Boc 等価体 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2013年05月21日 | Comment(2) | ADMET・物性・特許