単結晶構造をもとに溶解性を向上させる

最近、単結晶の X 線結晶構造解析の結果をもとに、高融点の難溶性化合物の溶解性を向上させる構造変換に成功した例がいくつか報告されていました [論文1][論文2][論文3]。私の主観でまとめると、以下の 3 つのような方策。

 (1) 結晶パッキングの鍵となる分子間相互作用部位の構造変換に注力する
 (2) 結晶パッキングの鍵となる分子間相互作用を阻害するような置換基 (立体障害) を導入する
 (3) 分子が平面的で層状に重なっている場合には面外方向に出る置換基を導入する

実際にどう構造変換するかはケースバイケースだと思いますが、ご興味ある方はケーススタディとして上記の論文などをご参照ください。高融点の難溶性の化合物で単結晶が取れた場合、こうしたアプローチも有用かもしれません。

[論文1] "Use of Small-Molecule Crystal Structures To Address Solubility in a Novel Series of G Protein Coupled Receptor 119 Agonists: Optimization of a Lead and in Vivo Evaluation" J. Med. Chem. 2012, 55, 5361.
[論文2] "Pyrazolopyridine inhibitors of B-RafV600E. Part 3: An increase in aqueous solubility via the disruption of crystal packing" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2012, 22, 912.
[論文3] "Potent and selective pyrazolo[1,5-a]pyrimidine based inhibitors of B-RafV600E kinase with favorable physicochemical and pharmacokinetic properties" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2012, 22, 1165.

気ままに創薬化学 2013年04月12日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許

芳香環を飽和環にして溶解性を上げる

今回は芳香環を飽和環にすることで溶解性の大幅な改善に成功した例を 2 つ紹介します。

まずは、Amgen の TRPV1 antagonist。下図左の化合物のナフトール環をテトラヒドロナフトール環にすることで、活性を維持したまま溶解性が向上。特に PBS (pH 7.4) への溶解度は <0.0001 mg/mL から 0.023 mg/mL まで改善したそうです。


次は武田薬品の hedgehog signaling inhibitor。下図のように縮環のベンゼン環を飽和環にしたところ、JP2 (pH 6.8) への溶解度が 10 倍改善したそうです。


上記で紹介した例は、奇しくも 芳香環は 3 つまで! sp3 炭素の割合を増やせ! の知見と合致していて、芳香環 4 つの化合物を 3 つにすることで溶解性が改善しています (もちろん sp3 炭素の割合も増加)。「化合物の顔」 や 「どの芳香環を飽和環にするか」 によって、溶解度が改善する場合もあればしない場合もあるとは思いますが、芳香環を飽和環にするというアプローチは溶解度改善策の一手として使えそうですね (上記の例を見ると平面性が高い分子に有効な方法でしょうか?)。

[論文1] "4-Aminopyrimidine tetrahydronaphthols: A series of novel vanilloid receptor-1 antagonists with improved solubility properties" Bioorg. Med. Chem. Lett. 2008, 18, 1830.
[論文2] "Discovery of the investigational drug TAK-441, a pyrrolo[3,2-c]pyridine derivative, as a highly potent and orally active hedgehog signaling inhibitor: Modification of the core skeleton for improved solubility" Bioorg. Med. Chem. 2012, 20, 5507.
[関連] 芳香環を飽和環にして結晶性を低下、溶解度を向上 (メドケム日記)

気ままに創薬化学 2012年12月21日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許

メチル基を入れて溶解性を上げる

結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上 (1)(2)(3) で、溶解性を上げる興味深い構造変換について紹介しました。今回は 2007 年の AstraZeneca の報告 [論文] から、メチル基を入れて溶解性が上がるケースを紹介します。

それは、下図の部分構造の酸素の隣にメチル基を導入する場合です。二十数例の化合物のペアの溶解度を比較すると、約半数が 10〜100 倍向上、約半数が 1〜10 倍向上、1 例だけ低下したものがあるものの、3540 μM → 2710 μM と誤差の範囲内で同程度だったそうです。同一あるいは類似のモチーフをもつ化合物を扱う場合、特に溶解度が課題ならば、試してみてはいかがでしょうか? 


溶解度が向上する理由については、具体的には書かれていなかったように思います。ただ、メチル基を導入することでアミンの pKa は 0.1 しか上がらないようで、アミンの塩基性は溶解度の向上を充分に説明するものではないとのことです。これも結晶パッキングを崩すことによる溶解性の向上なのでしょうか・・・?それとも溶液中でのコンホメーション変化の影響でしょうか・・・?

[論文] "A Database of Historically-Observed Chemical Replacements" J. Chem. Inf. Model. 2007, 47, 1294.

気ままに創薬化学 2012年08月10日 | Comment(2) | ADMET・物性・特許

Abbott の HTS hit の優先順位付け

HTS hit の優先順位付けの方法は、企業・プロジェクト・担当者などによって異なるかもしれませんが、Abbott でルーチンに使われているというツールが 2012 年 BMC に報告されました [論文]

Abbott の判断基準は、Ro4 や Ro5 に加えて、芳香環は3つまで! sp3炭素の割合を増やせ! の NAR や Fsp3 を取り入れたものになっています。ここでの Ro4、Ro5、NAR、Fsp3 の内容は以下の通り。

 Ro4 (ClogP ≦4, MW ≦400, HBD ≦5, HBA ≦10, tPSA <140)
 Ro5 (ClogP ≦5, MW ≦500, HBD ≦5, HBA ≦10, tPSA <140)
 NAR (芳香環の数)
 Fsp3 (sp3炭素の割合)

上記の指標を使って、HTS hit の優先順位付けを以下のように行っているそうです。

 1 位 ・・・ Ro4 = Pass, NAR <4, Fsp3 >0.5
 2 位 ・・・ Ro4 = Pass, NAR <4
 3 位 ・・・ Ro4 = Pass
 4 位 ・・・ Ro5 = Pass, NAR <4, Fsp3 >0.5
 5 位 ・・・ Ro5 = Pass, NAR <4
 6 位 ・・・ Ro5 = Pass
 7 位 ・・・ Ro5 = Fail

論文では、Ro4、Ro5、NAR、Fsp3 が上記の基準を満たすものが溶解性、膜透過性、代謝安定性に優れている傾向があること、優先順位が高いものほど溶解性、膜透過性、代謝安定性に優れている傾向があることが示されています。Abbott ではこの優先順位付けの方法を、HTS hit の優先順位付けだけでなく hit to lead やそれ以降の最適化でも考慮しているそうです。

化合物の顔、主活性の強さ、選択性、周辺化合物情報、各種実測値など他にも考慮する点はあると思いますが、NAR や Fsp3 を組み込んでいる点は興味深いですね。

[論文] "Abbott Physicochemical Tiering (APT)−A unified approach to HTS triage" Bioorg. Med. Chem. 2012, 20, 4564.

気ままに創薬化学 2012年07月29日 | Comment(2) | ADMET・物性・特許

logD (logP) は 1~3 を推奨

先日、脂溶性を下げる構造変換まとめ を書きましたが、どの程度の脂溶性に保つのがよいのでしょうか? 2010 年の AstraZeneca の "Lipophilicity in drug discovery" [論文] によると、logD (logP) は 1~3 程度を推奨しているそうです。以下に、その根拠として紹介されている論文の内容の一部をご紹介します。

(1) 溶解度
Yalkowsky の経験則 log Solaq=0.5-logP-0.01(MP-25) があり (MP は融点)、典型的な薬物分子の融点を 150℃ とすると 100μM 以上の溶解度には、logP<3.25 が必要。Clark によると、logP>3 では 1% の化合物が可溶 (>250μg/mL) に対して logP<3 では 50% の化合物が可溶。

(2) 膜透過性
Egan によると化合物が良好な吸収を示すには -1<logP<5.9 で PSA<132Å^2 が必要。AstraZeneca によると分子量に依存し、50% 以上の化合物で Papp>100nm/s を達成するには、分子量 350-400 では logD>1.7、400-450 では logD>3.1、450-500 では logD>3.4、500 以上では logD>4.5。

(3) クリアランス・代謝
Pfizer の 47018 化合物を検証した結果、logD と代謝安定性に相関があり、logD<3 が望ましい。一方で logD<0-1 の化合物になると腎クリアランスの影響が跳ね上がる。

(4) バイオアベイラビリティ(BA)
高い BA には、高い溶解度・高い膜透過性・低いクリアランスが必要で、 0<logP<3、1<logD<3 が望ましい。Topliss によるとヒト BA 80% 以上の化合物の 99% が -2<logD<3。

(5) 分布
logP 2-3 でラットの脳への透過性がプラトーに達する傾向があることと、血しょう非結合性の薬物暴露を最大化する目的から、中枢薬でも logD 1-3 が最適。

(6) 一般毒性
Promiscuity (いろんなタンパク質にべたべたくっつく性質) が logP>3 あるいは logP>2 で劇的に増加するという報告がある。Pfizer の in vivo 毒性試験で、「logP<3 かつ PSA>75Å^2」 では non-toxic/toxic=2.5、「logP>3 かつ PSA<75Å^2」 では toxic/non-toxic=2.5。

(7) hERG
中性、塩基性化合物では logD が上昇すると hERG 阻害が強くなる傾向。中性化合物では logD<3.3 で、塩基性化合物では logD<1.4 で、70% 以上の化合物が hERG IC50>10μM となる。logD 低減は hERG リスクを最小化するための最もシンプルで確立された手法。

(8) ホスホリピドーシス
Ploemen によると (logP)^2+(pKa)^2>90 でリスクが高まり、塩基性化合物で pKa が 9 とすると、logP<3 が望ましい。Tomizawa によると、電荷が 1 の場合には logP>2.75 でリスクが高まる。

(9) CYP 阻害
logP<3 群は logP>3 群に対して CYP 阻害 (1A2,2C9,2C19,2D6,3A4) が劇的に低く、平均 IC50>10μM。

(10) ターゲット活性
ターゲットクラス毎に脂溶性の分布があるが、いずれのクラスにも LogD<3 の化合物は存在する。また、脂溶性の相互作用はエントロピー的でプロミスカスになりやすく、ベストインクラスにはエンタルピー的な相互作用が優れている。

(11) 総合的プロファイル
Gleeson は logP<4、MW<400 が ADMET パラメータ全般に対して成功する確率をぐんと上げると報告している。また、AstraZeneca 化合物で膜透過性>100nm/s、溶解性>100μM、hERG IC50>10μM、を満たす化合物の 80% は 1<logD<3.1 におさまっている。

上記などのことから、logD (logP) は 1~3 程度が推奨されています。また、これらの関係を一覧にした論文の図が東京大学金井研究室のセミナー資料 Application of Bioisosteres in Drug Design (pdf, 2.5MB) の 6 ページ目に掲載されていますので、論文が見れない方はそちらもご覧ください。 

[論文] "Lipophilicity in drug discovery" Expert Opin. Drug Discov. 2010, 5, 235.
[関連] ドラッグデザインの羅針盤は脂溶性 (メドケム日記)

気ままに創薬化学 2012年07月17日 | Comment(0) | ADMET・物性・特許