「地獄からきた分子」は誤訳だと思う

twitter で久々に「地獄からきた分子」を見かけました。反応性・毒性の官能基を、これでもかというくらい載せた仮想分子です。考えられただけで、実際に存在するわけではありません (地獄に行けばあるのかもしれませんが)。


上の画像は 創薬科学・医薬化学 の写真だと思いますが、私がこの表現を初めて見たのは 最新 創薬化学 上巻下巻 だったと思います。そんな表現をするのかなぁ?と思って、英語版の The Practice of Medicinal Chemistry を確認したところ、"the molecule from hell" と書かれていました。直訳すれば確かに「地獄からきた分子」です。

ところが調べてみると from hell には「最悪の、最低の」という意味があります。例えば、I fired a babysitter from hell yesterday. (私は、昨日最悪のベビーシッターをクビにした。) のように "○○ from hell" で「最悪の ○○」のように使うそうです。なので "the molecule from hell" は「最悪の分子」「サイテーな分子」「イケてない分子」「チョベリバ分子 (死語)」などと訳すのがいいのではないかと私は思ってます (文脈的にも)。

ちなみに文章は『Figure 22.1 shows a chemical structure that we call "the molecule from hell"』なので、『図 22.1 は俺らが「マジサイテーな分子」って呼んでる構造』という感じかと。

[追記] 創薬科学・医薬化学 には、『地獄からきた分子を投与するとどこにでも共有結合し、必ず発がんすると思われる。そこで地獄へ導く分子という意味で、このように名づけた。』との記述がありますが、本当でしょうか?発がんしたとしても地獄へ導く?地獄へ導くのに地獄からの分子?あくまで個人的見解ですが、この記述も誤訳に引っ張られたのではないかと思っています。(ちなみに上述の英語の本にはこのような記述はありません)

*  *  *  *  *

twitter つながりでちょっと宣伝を。気ままに有機化学 でお知らせしましたが、研究者に贈る名言 bot (twitter) を作ってみました。1日2回、モチベーション向上や話のタネ、思考のきっかけ等になるかもしれない「研究者に贈る名言」を自動的につぶやく bot です。創薬研究者の皆さんにも、のぞいてみていただけると嬉しいです。

気ままに創薬化学 2015年01月29日 | Comment(0) | コーヒーブレイク

超低分子医薬品

In th Pipeline で、特に分子量が小さい医薬品の構造式が一覧にまとめられていました。選抜基準は、アスピリン(分子量180)よりも小さく、吸入麻酔や気体を除き、リチウムなど有機化合物でないものを除き、現在複数の国で使用されているものに限ったそうです(掲載し損ねたものもあるだろうという断りもされています)。これらの化合物の特徴として、カルボン酸、フェノール、硫黄が普段目にするよりも多いこと、また、非常に極性が高い(このサイズで標的とある程度強く相互作用するため)ことがコメントされています。


[関連1] Njardarson研究室の医薬品ポスター (気ままに創薬化学)
[関連2] 世界のトップセールスの薬200 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2014年10月30日 | Comment(0) | コーヒーブレイク

Njardarson研究室の医薬品ポスター


以前 世界のトップセールスの薬200 という Njardarson 研究室のポスターを紹介しましたが、同研究室から疾患ベース・構造ベースの新しい医薬品ポスターが 14 種類も公開されていました。

The Njardarson Group DISEASE FOCUSED PHARMACEUTICAL POSTERS

疾患ベースでは、Anti-Infective Drug Poster、Cardiovascular System Drug Poster、Nervous System Drug Poster など 12 種類。構造ベースでは、Fluorinated Pharmaceuticals と Sulfur Containing Pharmaceuticals の 2 種類です。上の図は Fluorinated Pharmaceuticals の一部をキャプチャーしたものです。こうしたポスターを眺めていると化合物のインスピレーションが得られるかもしれませんね。

気ままに創薬化学 2013年09月18日 | Comment(0) | コーヒーブレイク

活性本体が微量不純物だったケース

今回は HTS hit の活性本体が微量不純物だったケースを 2012 年の論文から紹介します。

さて、まずは Merck の renal outer medullary pottasium channel (ROMK or Kir1.1) 阻害剤の報告 [論文1]。下図左の HTS hit は HPLC や NMR で良好な純度であることが示されていたにも関わらず、HPLC で再精製すると活性が消失してしまいまいた。LC-MS で詳細に調べると分子量 384 の微量不純物が見られ、この分子量から下図右の化合物を推定、実際に評価すると 100 倍の活性をもっていたそうです。つまり、下図左の化合物の活性は 1 %の微量不純物による活性だったのです。


次は Pfizer の kynurenine aminotransferase (KAT) II 阻害剤の報告 [論文2]。HTS hit として下図左の化合物が得られましたが、標品で再試験すると活性が大幅に減弱してしまったそうです。元の HTS のサンプルから微量不純物をクロマト精製し、構造を同定し、再合成し、評価したところ、下図右の化合物が活性本体であることがわかったそうです。


HTS hit に限らず、不純物が高活性を示すことはありえることなので気を付けないといけないですね。

[論文1] "Discovery of Selective Small Molecule ROMK Inhibitors as Potential New Mechanism Diuretics" ACS Med. Chem. Lett., 2012, 3, 367.
[論文2] "Discovery of Brain-Penetrant, Irreversible Kynurenine Aminotransferase II Inhibitors for Schizophrenia" ACS Med. Chem. Lett., 2012, 3, 187.

気ままに創薬化学 2013年07月10日 | Comment(1) | コーヒーブレイク

wiley 企画の当選者発表 & ISPC2011 特典


Wiley の最新書籍を無料でもらってレビューを書こう! のキャンペーンに、最終的に 33 名の方がご応募くださりました。ありがとうございます!応募メールの到着順に番号を割り当てて乱数プログラムで抽選し、当選は下の 3 人の方に決定しました。おめでとうございます!

森田 昌樹 さん
"Modern Oxidation Methods"

匿名希望 さん
"Privileged Chiral Ligands and Catalysts"

大軽 貴典 さん
"ADMET for Medicinal Chemists: A Practical Guide"

当選された方の氏名はご本人に確認のうえで掲載させていただいています。当選されなかった方には特にメール差し上げていませんのでご了承ください。ご応募いただいた上コメントをいただいた皆様には重ねて感謝申し上げます。多数いただきましたので個々に返事はしていませんが、いただいたコメントは今後のブログ更新のドライビングフォースになること間違いなしです、ありがとうございます。また、twitter で企画を紹介してくださった方々にも感謝申し上げます。

残念ながら当たらなかった方々、申し訳ないですが、大学生協や大型書店や Amazon 等で立ち読み・お買い求めいただけたらと思います。・・・とは言え、こういった専門書は立ち読みしようにも置いてないのが普通です。そこで役立つのが、学会の付設展示会。専門書がズラリと置いてあって自由に立ち読みできて、しかも割引価格で購入することができることが多いです。私も学会に行ったときにはよく付設展示会にも足を運ぶようにしています。

さて、来月 8 月 10-12 日に京都で日本プロセス化学会主催 International Symposium on Process Chemistry (ISPC2011) が開催されます。ここにワイリー・ジャパンが付設展示会に出展し、書籍を特価で販売します (展示書籍のタイトルと価格のリスト pdf)。現在、ブログ ワイリー・サイエンスカフェ で一冊あたり 300 円割り引いてくれるクーポンが掲載されていますので、学会に参加される方は是非チェックしてください。

さらに今回、『気ままに有機化学/創薬化学』 の読者様のために特典を用意してくださいました。本のご購入時に 「気ままに有機化学を見た」 あるいは 「気ままに創薬化学を見た」 と言っていただければワイリーグッズをもらえるそうです。ぜひお立ち寄りください!

気ままに創薬化学 2011年07月16日 | Comment(0) | コーヒーブレイク