ワルファリンの誕生秘話と名前の由来

1920 年、牛などの家畜が突然死する事件が起こります。関節や筋肉内に出血を起こして死んで行くのです。よくよく調べると湿度の高い夏にスイートクローバーを食べた牛に起きていることがわかり、この原因不明の病気は出血性スイートクローバー病と呼ばれ恐れられました。

1933 年、ウィスコンシン大学のリンク博士はこの病気で死んだ牛の血液に興味を持ちます。5 年もの歳月をかけて、腐ったスイートクローバーから数 mg のジクマロールを単離しました。これをウサギに投与すると血液が固まらなくなることを確認し、ついに病気の原因が明らかになりました。

1948年、リンク博士はジクマロールを基にして、より強力な作用を持つ化合物を創製します。こうして生まれたのがワルファリンです。この新しいクマリン骨格をもつ化合物は、リンク博士が研究を続けた機関である Wisconsin Alumni Research Foundation (WARF) とクマリン (coumarin) の語尾を合わせて Warfarin (ワルファリン) と名づけられました。

当初、ワルファリンによる出血はコントロールが難しく致命的な作用を及ぼすため、主に殺鼠剤として使われていました。その後、プロトロンビン時間を調べる血液検査が迅速に行えるようになり、ワルファリンが人に対して使われるようになっていったのです。


[参考] 知らずに飲んでいた薬の中身


気ままに創薬化学 2010年02月05日 | Comment(1) | コーヒーブレイク

最高にカッコいい薬の構造式 [動画]

ニコニコ動画より、最高にカッコいい薬の構造式という動画。


創薬化学者にはたまりませんね。笑

気ままに創薬化学 2010年01月14日 | Comment(0) | コーヒーブレイク

創薬化学の新ジャーナル

   

Chemical & Engineering News によると、2010 年 1 月に ACS から ACS Medicinal Chemistry Letters という新ジャーナルが、2010 年半ばに RSC から MedChemComm という新ジャーナルが発刊されるようです。これに伴って Journal of Medicinal Chemistry はフルペーパーやレビューに集中することになりそう、とのこと。ご興味ある会社の方は検討してみてはいかがでしょうか。

気ままに創薬化学 2009年11月23日 | Comment(0) | コーヒーブレイク

hERG の名前の由来

「カッコ良くてぇ〜、頭良くてぇ〜、身長高くてぇ〜、性格良くてぇ〜、金持ちでぇ〜、長男じゃない人を彼氏にしたいっ!」 なんて言う人を見ると苦笑いしてしまいますが、創薬化学者は 「活性が十分にあって、毒性や副作用が十分に弱く、動態も物性も良好で、周辺化合物を権利化可能で、商業的に大量合成できる化合物を作れっ!」 という期待に答えないといけません。

クリアしなければいけない副作用指標の 1 つに hERG 阻害作用があります。hERG は心筋の再分極を司るカリウムイオンチャネルで、これを阻害すると QT 延長による不整脈を引き起こしてしまうと言われています。つまり、hERG を阻害しない化合物を合成しなければなりません。意外と多くの化合物が hERG を阻害してしまうため、創薬化学者の頭痛の種になることもしばしばです。

では、hERG とは何の略でしょうか?

実は human Ether-a-go-go Related Gene の略です。Ether は合成化学者お馴染のエーテルのこと。a-go-go は実はアメリカのナイトクラブのダンスのことなのです。

hERGは、1960年代、William D. Kaplan (現在、カリフォルニア州ドアルテにあるCity of Hope Hospitaに在籍)により、ショウジョウバエにおいて見出されたether-a-go-go遺伝子のヒトホモログであることからhERG遺伝子と呼ばれる。この遺伝子に変異が生じたショウジョウバエをエーテルで麻酔すると、ダンスするように脚を震えさせたことから、カリフォルニア州ウエストハリウッドのナイトクラブ「ウィスキー・ア・ゴーゴー」において当時人気であったダンスにちなんでether-a-go-go遺伝子と命名された。
[参考] hERG (Wikipedia)

気ままに創薬化学 2009年11月01日 | Comment(0) | コーヒーブレイク