二級アミンのビシクロペンチル化反応



約 4 年前に ベンゼン、シクロブタン、ビシクロペンタン という記事で Pfizer が bicyclo[1.1.1]pentane (以下、ビシクロペンタン) 構造に力を入れているという話を紹介しました。そして最近 2016 年初頭に、Pfizer と Baran 研の共同研究で、二級アミンのビシクロペンチル化反応が Science 誌に報告されました [論文]

アミンを対応するターボアミド (R1R2NMgCl・LiCl) にして反応させるのが肝のようです。またこの方法はスケールアップも可能で、Pfizer のビシクロペンチルアミン構造をもつ臨床候補化合物のプロセス合成にも使われているそうです。論文では drug-like な二級アミンのビシクロペンチル化も行っていますので、創薬化学でも重宝しそうです。

論文では "Strain-release amination" というコンセプトでビシクロペンチル化反応だけでなくシクロブチル化反応やアゼチジン化反応にも展開しています。また詳細な開発経緯が Baran 研のブログ [関連] に公開されています。

[論文] "Strain-release amination" Science, 2016, 241. (DOI: 10.1126/science.aad6252)
[関連] Strain-Release Amination – Your Guide to Make Super-Paxil! (Open Flask)

気ままに創薬化学 2016年04月07日 | Comment(0) | 合成化学

立体的に混み合った2級芳香族アミンの合成


先週の Science に創薬化学に使えそうな反応が Baran 研から報告されていました [論文]。上図のように、ニトロアレンとオレフィンから立体的に混み合った2級芳香族アミンが生成する反応です。

窒素原子の隣の炭素原子に炭素置換基が3つ結合した構造 (N-CR1R2R3) は、医薬品や医薬中間体に含まれることがありますが、構造によっては合成が難しかったり大変だったりするかと思います。この反応をうまく使えばサックリ作れるかもしれません。

論文は Bristol-Myers Squibb の研究者も共著で、実際に医薬中間体を短工程で合成したり、drug-like な building block も合成しています。収率は 40-60 %程度が多いですが、官能基許容性は高いようです。論文には 100 以上の反応例とともに上手く行かない基質に関する記載もあり親切です。Baran 研のブログ [関連1] にも、上手く行かない基質や開発秘話が載っています。

[論文] "Practical olefin hydroamination with nitroarenes" Science 2015, 348, 886–891. (DOI: 10.1126/science.aab0245)
[関連1] Formal Olefin Hydroamination With Nitroarenes (Open Flask)
[関連2] 官能基化オレフィンのクロスカップリング (化学者のつぶやき)

気ままに創薬化学 2015年05月31日 | Comment(0) | 合成化学

DABSO を用いたスルホンアミド・スルホンの合成

昨日の 創薬化学向けの有機合成反応と部分構造(Pfizer)など の Pfizer の資料にスルホンアミドの合成法も紹介されていました。その他のスルホンアミドやスルホンの合成法として個人的に注目しているものに DABSO があります。



DABSO は DABCO の SO2 付加体で、固体で扱いやすく、下記論文の反応に利用することでスルホンアミドやスルホンを合成することができます(詳細は各論文を参照)。種々の置換基導入やヘテロ芳香環導入が可能で、[論文7] では drug-like な構造を意識した化合物合成がなされています。DABSO は市販されていて、Aldrich では 21,000円/1g、Key Organics では £20.00/1g です(Aldrich さん、もっと安くしてください)。

ちなみに DABSO は Michael C. Willis 先生らが報告した化合物ですが、[論文3] は Pfizer の報告ですし、[論文4][論文5] は Astrazeneca との共著で、一部の製薬企業も興味があるようです。

*  *  *  *  *

[論文1] "DABCO-Bis(sulfur dioxide), DABSO, as a Convenient Source of Sulfur Dioxide for Organic Synthesis: Utility in Sulfonamide and Sulfamide Preparation" Org. Lett. 2011, 13, 4876–4878. (DOI: 10.1021/ol201957n)



[論文2] "DABSO-Based, Three-Component, One-Pot Sulfone Synthesis" Org. Lett. 2014, 16, 150-153. (DOI: 10.1021/ol403122a).



[論文3] "Synthesis of Sulfones from Organozinc Reagents, DABSO, and Alkyl Halides" Org. Lett. 2014, 16, 154–157. (DOI: 10.1021/ol4031233)


[論文4] "Palladium-Catalyzed Three-Component Diaryl Sulfone Synthesis Exploiting the Sulfur Dioxide Surrogate DABSO" Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 12679–12683. (DOI: 10.1002/anie.201305369).



[論文5] "Palladium-catalyzed synthesis of ammonium sulfinates from aryl halides and a sulfur dioxide-Surrogate: A gas and reductant free process" Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 10204–10208. (DOI: 10.1002/anie.201404527).



[論文6] "One-pot three-component sulfone synthesis exploiting palladium-catalysed aryl halide aminosulfonylation" Chem. Sci. 2014, 5, 222-228. (DOI: 10.1039/C3SC52332B)



[論文7] "Combining Organometallic Reagents, the Sulfur Dioxide Surrogate DABSO and Amines: A One-Pot Preparation of Sulfonamides, Amenable to Array Synthesis" Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, in press. (DOI: 10.1002/anie.201409283)



気ままに創薬化学 2014年12月10日 | Comment(0) | 合成化学

実用的なクロロ化剤 Palau′Chlor (CBMG)


最近、Scripps 研究所の Baran らが新しい実用的なクロロ化剤 Palau′Chlor (CBMG = 2-​Chloro-​1,3-​bis(methoxycarbonyl)​guanidine) を JACS に報告し [論文]Aldrich から発売されました (5,000 円/1 g)。例えば、下図のヘテロ芳香環では、他のクロロ化剤よりも収率よくクロロ体を与えます。


Baran 研究室の blog "Open Flask" の記事より

基質を論文から 「一部」 抜粋して紹介すると、下図のイミダゾール、ピラゾール、ピロール、アニソールなどのクロロ化に使えるようです。クロロ基はそれ自身が医薬分子に含まれることもあり、また中間体としてクロスカップリング反応などの基質となる官能基なので、創薬化学でも重宝しそうです。


[論文] "Palau’chlor: A Practical and Reactive Chlorinating Reagent" DOI: 10.1021/ja5031744

気ままに創薬化学 2014年06月26日 | Comment(0) | 合成化学

ピリジン類の 2 位選択的 C-H フッ素化反応

John F. Hartwig 先生らによって先月の Science に報告された、ピリジンやジアジンの選択的 C-H フッ素化反応 [論文]。反応系はシンプルで、ピリジンやジアジンと AgF2 (市販) をセトニトリル中で室温で 1 時間撹拌するというもの (基質によっては 50 ℃)。


論文に挙げられている基質の一部を紹介すると下図のような感じ。


・ 電子求引基、電子供与基がピリジンやジアジンのどの位置に置換されていても大丈夫。
・ ケトン、エステル、アミド、アセタール、保護されたアルコールやアミン、ニトリルは許容。
・ ピリジン 2 位にクロロ基やブロモ基があっても置換されない。
・ カルボン酸やアルデヒドはアシルフルオリドに変換され、2-フルオロピリジンにはならない。
・ 3 位に置換基がある場合、2 位が優先的にフッ素化されるが、5 位フッ素化体が混ざることも。
・ キノリン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジンもフッ素化可能。
・ π 過剰系の五員環ヘテロ芳香環は反応が複雑化する。(五員環ヘテロ芳香環を含む基質はダメ)

この反応で得られるフルオロピリジンは、
・ 2 位のフッ素を種々の求核剤 (N、O、C) で置換可能。
・ 酸触媒で加水分解して 2-ピリドンに変換可能。
・ LDA で 3 位を選択的にリチオ化することができ、求電子剤でさらに修飾可能。

創薬化学では、合成困難な多置換ピリジンの合成や late-stage での修飾に使えるかもしれませんね。

[補記] 気になる点としては、Supplementary Materials に "All manipulations were conducted under an inert atmosphere with a nitrogen-filled glovebox unless otherwise noted. All reactions were conducted in oven-dried vials fitted with a Teflon-lined screw cap under an atmosphere of nitrogen unless otherwise noted." との記載がある点です。酸素や水に極めて弱い反応なのでしょうか?それとも通常の操作でも多少収率が落ちても反応は進行するものなのでしょうか?もし実際に試した方がいらっしゃれば、情報いただけると幸いです。
[論文] "Selective C-H Fluorination of Pyridines and Diazines Inspired by a Classic Amination Reaction" Science, 2013, 342, 956.

気ままに創薬化学 2013年12月30日 | Comment(4) | 合成化学