AstraZeneca の独自ビルディングブロックと "rule of 2"

先週の スルホン → スルホキシイミンで溶解度改善 では AstraZeneca のスルホキシイミンを含むビルディングブロックの合成法も記載されている論文を紹介しました。同社ではスルホキシイミン以外にも独自の(非売品の)ビルディングブロックを作って創薬化学に活用しているそうです [論文]

社内や社外(文献)の情報を元に非売品のビルディングブロックをデザインし、CRO(XuXi AppTec)に外注して 2009-2012 年に 3044 個のビルディングブロックを約 20 g スケールで合成させたそうです。動態や物性の良い化合物を得るためのビルディングブロック(試薬)のガイドラインとして「rule of 2」(MW <200, clogP <2, HBD ≦2, HBA ≦4)が提唱されています。

デザインコンセプトも一部紹介されており、非平面的なスピロ化合物や Fsp3 の大きい化合物、スルホン等価体で溶解性改善が期待できるスルホキシイミン化合物、塩基性や脂溶性を調節したアミン類、シクロアルカン化合物の代謝改善を意図したもの、ヘテロ芳香族化合物で手に入りにくい置換基をもつもの、などです。実際に合成したビルディングブロックの構造の一部(22種)が論文中に記載されており、そのうち特に人気(popular)だと記載されているものを抜粋すると下図の9つです。(「人気」だからといって「良い」かどうかはわかりませんが)

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こうしたビルディングブロックを社内で保有すれば、創薬化学のスピードと質の向上につながるかもしれません。AstraZeneca では、この活動を始めた 2009 年以降、この独自ビルディングブロックを使った3つの候補化合物が誕生したそうです。

もしこのブログの読者に試薬会社の方がいたら、上図の人気のビルディングブロック取扱を検討されてはいかがでしょうか?製薬企業によく売れるかもしれませんよ?

[論文] "Designing novel building blocks is an overlooked strategy to improve compound quality" Drug Discovery Today, In Press. (DOI: 10.1016/j.drudis.2014.09.023)
[関連] Rule of 5, 4, and 3 (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2014年12月28日 | Comment(0) | 相互作用・配座・等価体

ベンジル位の置換基でN-ベンジルアミドの配座は大きく変わる

アミド、イソキサゾール、イソキサゾリン (2) の続報に、ベンジル位の置換基でN-ベンジルアミドの配座は大きく変わる(配座を制御できる)という興味深い知見が含まれていました [論文]

下図のように、ベンジル位に種々の置換基をもつN-ベンジルアセトアミドの配座を計算すると、無置換体では "extended" 型と "bent" 型の配座にはほとんどエネルギー差がなかったのに対し、メチル体やジメチル体では "extended" 型がやや優位、シクロアルキル体では "bent" 型が優位とのことです。シクロアルキル体のうち、シクロブチル体が最も "bent" 型が優位で、活性も最も高いようです。(論文には各化合物の torsional energy plot も載っています。下図は論文を元に気ままに創薬化学が独自にまとめた図です。)


ベンジル位の置換基でN-ベンジルアミドの配座がここまで大きく変わるのは興味深いですね。特にジメチル体とシクロプロピル体で(形やサイズは割と近いにも関わらず)優先配座が異なることには注意が必要かもしれません。メチル体やジメチル体で活性がなくて置換基が許容されないと思っていたら、実はシクロプロピル体では活性がある、なんてことも起こりえそうです。N-ベンジルアミドのベンジル位の置換基を検討する際には、"extended" 型優位の置換基(メチル体、ジメチル体など)と "bent" 型優位の置換基(シクロプロピル体、シクロブチル体など)の両方を合成した方がよさそうですね。

[論文] "Discovery of isoxazole voltage gated sodium channel blockers for treatment of chronic pain" DOI: 10.1016/j.bmcl.2009.07.135

気ままに創薬化学 2014年08月20日 | Comment(0) | 相互作用・配座・等価体

アミド、イソキサゾール、イソキサゾリン (2)

Merck の Nav1.7 blocker での配座制御の事例です [論文]。N-ベンジルアミドの比較的安定な配座として、下図の "extended" と "bent" があります。"extended" ではフェニル基がアミド平面と同一方向に伸びていて、オキサゾール環やイソキサゾール環によってミミックされます。一方、"bent" はフェニル基がアミド平面から外れた方向に伸びていて、オキサゾリン環やイソキサゾリン環によってミミックされます。論文ではモデリングを用いてそれぞれの配座のアミドとそれぞれのヘテロ環がよく重なることが示されています。


実際に、下図上段のアミドをオキサゾールやイソキサゾールの "extended" 配座等価体で置き換えると活性は減弱し、オキサゾリンやイソキサゾリンやイソキサゾリンの "bent" 配座等価体で置き換えると同等以上の活性の化合物が得られました。ここで、オキサゾリンは酸性溶液で加水分解されたため、イソキサゾリンに絞って更なる検討を行ったそうです。


「アミド→イソキサゾール」で "extended" 型アミドの配座を、「アミド→イソキサゾリン」で "bent" 型アミドの配座をミミックしうる、という事例の紹介でした。

[論文] "Discovery of a novel class of isoxazoline voltage gated sodium channel blockers" DOI: 10.1016/j.bmcl.2009.07.125
[関連] アミド、イソキサゾール、イソキサゾリン (1) (気ままに創薬化学)

気ままに創薬化学 2014年07月28日 | Comment(2) | 相互作用・配座・等価体

ベンゼン環の等価体にシクロブタン環

シクロブチル環をオレフィンやベンゼン環の代わりに では、分子中央のベンゼン環の等価体としてシクロブタン環を利用した例を紹介しました。先週報告された Amgen の PDE10A (Phosphodiesterase 10A) 阻害剤 [論文] でも同様の展開がなされていました。


上図のようにベンゼン環をシス型あるいはトランス型のシクロブタン環に置き換えたところ、同等以上の活性の化合物が得られました。面白いことに、酵素と化合物のX線共結晶構造解析によると、シス型もトランス型もほとんど同じ結合様式なのです (シス型とトランス型で両端のヘテロ芳香環がほとんど重なる)。一見シス型とトランス型で立体的な形が大きく違いそうなものですが、ほとんど重なることもあるようです (阻害活性の差は約 4 倍)。

また、シクロブタン環の代わりにシクロヘキサン環 (相対配置の記述なし) にした場合には IC50 は 271 nM で大幅に活性低下、「ベンゼン環 → シクロヘキサン環」よりも「ベンゼン環 → シクロブタン環」の方が活性保持になっているのも興味深い知見です。論文によると、シクロヘキサン環は嵩高すぎて酵素の狭い空間にフィットしないから活性が大幅に低下したと推測されています。平面的なベンゼン環により近いのは、シクロヘキサン環よりもシクロブタン環ということでしょうか。

[論文] "Discovery of Novel Imidazo[4,5-b]pyridines as Potent and Selective Inhibitors of Phosphodiesterase 10A (PDE10A)" DOI: 10.1021/ml5000993

気ままに創薬化学 2014年04月03日 | Comment(2) | 相互作用・配座・等価体

コンホメーション固定化にジアザアダマンタン環

2013 年、Pfizer の GPR119 agonist の報告より [論文]。下図の agonist、partial agonist、antagonist の構造から、"agonist conformation" に固定化したジアザアダマンタン (2,6-diazatricyclo[3.3.1.1~3,7~]decane) 骨格をデザインしたそうです。


しかしジアザアダマンタン環は市販されていないため、自前で合成を検討。論文中で悪戦苦闘も記述されていますが、最終的には下図のように市販の 1 級アミンから Hofmann–Löffler–Freytag reaction によってジアザアダマンタン環を合成したそうです。


最近の Pfizer は、ジアザアダマンタン環 (上記)、シクロブタン環 (過去記事)、ビシクロペンタン環 (過去記事) など興味深い環構造を創薬化学に積極的に取り入れているようですね。

[論文] "Design and Synthesis of Diazatricyclodecane Agonists of the G-Protein-Coupled Receptor 119" J. Med. Chem. 2013, 56, 301–319.
[関連] Saturated nitrogen heterocycles by intramolecular CH amination reactions (The Heterocyclist)

気ままに創薬化学 2013年02月26日 | Comment(0) | 相互作用・配座・等価体